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走る音がする。忙しく此方に向かってくるのは誰かなんて野暮なことはもう云わないことにして、多分これから私の身に起こるであろう事態にどうやって切り抜けようかと思案している間にその足音は私が居る教室の前までやってきた。ああ、どうしよう慌しい彼は知らない間にこんなにも早く走れるようになったんだと思いながら扉が開くのを静かに待った。案の定その扉は足音が止んだ直ぐに開きそこからはうずまきナルトが顔を出した。

「あ、せんせー久しぶりだってば」

犬みたいにふわふわとしているナルト君の金色の髪の毛が宙に揺れた。
にかりと笑ったナルト君の笑顔はアカデミーを卒業した時と何ら変わりなく、だけれども大人びた身体と表情は昔とは違うのだと思わせる。

「本当、久しぶり」

本当に久しぶりだ、あっという間に落ちこぼれと云われていたナルト君がこんなにも成長した。たん、と生徒が授業を受ける机達の幾つか段を上がってきてナルト君は私の前までやってきた。遠くで見た時とはまた一段と違った印象を受けて私は緊張のあまり胸がどぎまぎした。アカデミーの時の面影は残っているものの男性らしさがこの数年で幼さを殆ど覆い隠していた、生徒がこうやって成長して此処にやってくるのを見ると少し淋しい気がしてならないのだけれども嬉しさの方が格段に上だ。イルカ先生が淋しい、と云っていた気持ちが分かるような気がした。

「何で今日は此処に来たの?」
「何となく、アカデミーに寄りたくなったんだ」

ナルト君はそう云ってにしし、と笑った。ああこれは前によく見た私が好きな笑顔だった。たまたまで今日、私が此処に居て、ナルト君が此処に来てくれるのが奇跡で、運命なのだと感じてしまうくらい私は嬉しくなった。ナルト君は再度にしし、と笑って先生全然変わってないってばよと云った。そりゃあもう大人だもの外見はもうこれ以上変わらないわ、後はどんどん老けていくだけ。ナルト君はどんどん格好良くなって大人になっていくんだね、淋しいなと最後の方は心の声だったのだけれどもナルト君が淋しい、?と聞いてきたものだから声に出していたらしい。取り繕うとして云い訳を考えてみるけれど頭の中では格好良くなったナルト君の笑顔がちらついて思いつかなかった。

「せんせ、どうして此処にいるんだってばよ?」

ナルト君の綺麗な瞳がきらりきらりと太陽の光に反射して私の目に入る。
核心部分を直接突いてこないようになった、ナルト君にどきりとした。今日此処でナルト君に会ってから何度目だろうこんな風に心が跳ねるのは。

「ちょっと、ね」

隠した恋心、隠した小さな箱を生徒の机の中に隠してナルト君に笑いかけると先生は嘘つきだな、と笑顔で云われるものだから戸惑った。ナルト君に、気付かれているとは思わなかった。年が近いとは云え若い時の七歳差は大きいものだ。けれど、その七歳下の子に私の核心部分を覗かれていると思うと居た堪れない気持ちになった。だって、ナルト君は私よりも七つも下なのだ、それなのにこんなにどきりとしてしまう。

先生は嘘つきだってばよ」

ナルト君はもう一度そう云って机の中にしまってあったチョコレートをいつの間に気が付いていたのかそれを手に取り笑顔で去っていった彼を教室の生徒用の机と椅子に座り呆然としていた。ぱたぱたと去る足音と同じくらいに私の心臓はばくばくと鳴っていた。

きみへと続くやわらかな道