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傷だらけでみんなの待つ教団に帰るとが一番最初にお帰り!と大きな声で僕を迎えてくれた。傷だらけの、じりじりと痛む身体を引きづりながらの僕にはその一言を聞けたことで傷口のことなどどうでもよくなってしまっていて、それを知らないは僕の傷口を目に入れた瞬間電光石火の如く腕を引っ張り僕を医務室へと運んだ。その俊敏さを、アクマの時に発揮して欲しいものだと思いながらも自分を心配してくれているに、嬉しくてにこりと笑うと笑い事じゃないとやけに怒った声が背中に刺さる。消毒液の匂いが充満している医務室で、彼女は消毒液とガーゼを探している。運よくコムイさんは仕事から逃亡中らしく居ない。助かったと心の底から云う僕に苦笑をしながら見つけた消毒液を腕の傷にかけてから器用に手当てをしていく。

「全くもう、怪我しているなら云ってよ」
「あはは、ごめん」
「ごめん、じゃないでしょ」

むすりとしながらも丁寧に包帯を巻いてくれた。ありがとうございますと云うと顔を一瞬背けた後に、次怪我したことを黙っていたら、という所で次に来る言葉が予測出来ていたから取り合えず謝ることをすると納得するよりは訝しげな表情をしながらは嘘は通用しない、と僕の嘘を簡単に見破った。それでも肯定しない僕に諦めたのか云うのが面倒になったのかそれきり云うことはなかった。

の怒りをかってしまった僕は曖昧な笑みを浮かべつつご機嫌をとる。少し痛む腕を押さえて外に出るとなんで気付かなかったのかと思ってしまう程もわりとした自分の大好きな甘い匂いが教団の中を包み込んでいることに気付いた。今日は何の日ですっけとに聞く前に飛び込んできたのは階段の手すりにもたれかかった女と男が二人口付けを交わしているのを目撃してああ、そういえば今日はバレンタインだったことを思い出す。此方に気づいていないカップル二人は更に深いところまでいこうとしていて、隣を一瞥すると僕以上には驚いていて腕を上げた格好で固まっていた。ああ、そういえばはこういうのがとても苦手だったっけと思い出して固まったまま動かない上げたままの腕を引っ張り階段から離れた。

「…っ、あ…アレン」
「もう少し場をわきまえて欲しいですよね、」

動揺した声が背中から聞こえる。
我に返ったは腕を僕に引っ張られていることに動揺しているようだった。僕は気付かないふりをして話を逸らした。は未だに困惑しているのか僕に腕を引っ張られたまま、腕には力は全く入っておらず成すがままの状態。逆に自分は師匠の所で色々見てきたからあれくらいじゃ驚かないのだけれども、同じ境遇ではないからそうはいかない。逆方向の階段に行くとそこは誰も居ず胸をに気付かれないようにひっそりと撫で下ろす、なんでか、自分でも分からなかった。相変わらず腕を引っ張ったまま。どうにか自分達の部屋のある階まで上った。その間もは黙ったままで、気まずそうだ。僕は何も気にしていないのにそんなに恥ずかしそうにしなくても大丈夫ですよ、と云いたかったのは山々だったがそんなことを聞けるような雰囲気ではなく、驚きから冷めていない彼女に云う台詞でもない。

「アレン」

その空気の中にの声が耳に響いた。
振り向くとは顔を朱く染めて思わず手を伸ばしてしまいそうになるくらいの可愛い顔でその雰囲気を壊した。待って、と云うの言葉を素直に従うと何処からか出した小さな箱を僕に差し出してきて、僕は一瞬だけ思考が停止した。ああ、今日はバレンタインだった。

「あ、アレン…これ、バレンタイ、ン…だからあげる」

先程の恋人のことが後を引くのか朱く頬を染めたまま思考が上手く機能しない僕の掌に乗せる。見かけは小さいけれど手に持ってみると結構な重さだと思った。思いに忠実になると先程の恋人達のようなことをしたくなってしまったのだけれども、生憎僕の片思いだし、バレンタインのチョコレートをくれたからと云って義理かもしれない。変なところで臆病なのだなと笑うと、はそんな僕に気付かず喜んでいるのかを知りたいような顔で僕をちらちらと覗いてくる、危ないよ、と云いたいのを堪えてチョコレートの箱を握り締めた。

、ありがとうございます。大切に、食べますね」

「君と出会えてよかった」