もう二月だと云うのにまだまだ寒い季節だ、手袋をしないと悴んで霜焼けになって肌が気持ち悪いものに変わるし、そのまま外に居ると鼻だけがトナカイみたいに真っ赤になってとても見られたものじゃなくなる。そんな利点をかねそろえながらも私は外にいる。しかも今日は普段よりも一段と寒く体温が空気に奪われていくのがとても早い。マフラーも手袋も忘れずに持ってきたという所では唯一よかったとは云えるけれどもそれらを持ってしてでも寒いものは寒かった。両足を交互に地面に叩きつけて身体をどうにか温めようと無駄な足掻きをして見る、結果はそんなに暖かくならない。はあと息を吐けば白い靄が空に上っていく、それを見てまだかまだかと私は待つ。
「あれ、先に帰ったんじゃなかったの」
「あ、サクラ。今部活の帰り?」
「そうなのよ、いろいろあって忙しかったの」
「今日は一段ともてて羨ましい限りですねー」
そんなことないわよ、と寒さと別の朱さを持たせたサクラを見ていいなと素直に思った。サクラはとても利発で頭が良くて美人で才色兼備、というものを兼ねそろえていると思っていたのは最初だけで性格は多々凶暴(同じクラスのうずまきナルトを殴り飛ばすくらい)なのだけれどもそれを覆うくらい優しい女の子なのだ。だから両手では持てないくらいの袋に入ったチョコレートを同姓から貰ってもおかしくない。因みにどうでもいいだろうけれど私はひとつも同性からは貰っていない、ごく普通の何処にでもありふれている女学生だからだ。漫画で云う名のない脇役の一人みたいな。サクラはは誰か待っているの、と重たそうに袋を持ちながら尋ねてきた。
「あ、うん」
短い返事の中にどれほどの意味合いを含んでいるのか頭の良いサクラはその一言だけで誰を待っているか何のためにここにいるかを察した、頭の良い人は私みたいな凡人と比べ物にならない洞察力があるんだなあとしみじみ寒さと一緒にかみ締めた。
「サクラは誰かにあげたの?」
「ええ、ナルトとサスケ君といのと部活の子達に先生方」
「たくさん配ったねえ…」
「まあね、でもこれくらいどうってことないわ」
喜んでもらえるの見られるだけで嬉しいもの、と笑顔を付けた破壊力抜群の組み合わせ。流石もてるだけのことはあると持ち上げると何も出ないわよと冷ややかな返事が来る。ばれていましたか、聞きたいことがあったんだけどなあとしょぼんとすると仕方ないといったサクラの顔が簡単に浮かんだ直後にサクラは私が思い描いたそのまんまの表情であいつならまだ教室だけど、もう少ししたら出てくると思うわよと私の欲しかった答えがサクラの口から飛び出た。ありがとう、親友さまさまだねと笑ったら莫迦ねと云われてサクラは邪魔しちゃ悪いからと云ってさっさと帰路へ向かっていってしまった。
別に邪魔なんてないのに、とまた一人になってしまった校門の前で雪を踏みしめる。私の重さでふわふわの雪が地面に潰されていく様子を見てどうだ、私の体重は重いだろうと一人ほくそ笑んでいたところでまたもやオイ、と呆れた声が私に飛んでくる。上を向くとシカマル、隣のクラスの幼馴染奈良シカマルがそこにはいた。私はなんだ、シカマルかと呟いたのだけれどちゃっかりと聞こえていたらしい、眉を寄せられた。
「こんなところで何やったんだよ、風邪引いちまうじゃねえか」
「何って、待ち伏せ」
柄にもねえことしてんな、と云いつつもシカマルの表情は眉間にシワ。
いつもより人相が悪くなっていますよシカマルさん、と心の中でだけで留めて云う。
「、で、誰をだよ」
「…シカマルには関係ないの」
「ナルトか、サスケか?あいつらならやめと」
「っもう!煩いわね!あんただってもててるじゃないのさ」
「俺は、別にそうでもねえけどよ。あいつらに比べれば」
確かにナルトとサスケと比べてしまっては比にもならないんだけれども、シカマルだって一般から見れば十分、否十分過ぎる程もてている。それを証明しているのはサクラのように両手にぶら下げてある沢山の袋。なんだか気に入らなくてむすりとしてしまった。ああ可愛くない、本当はナルトとかサスケを待っているんじゃなくてシカマルを待っていたって素直にどうして云えないの。そう思ったら自分自身に腹が立ってきて体重でだいぶつぶれてしまい氷となった雪を蹴り飛ばしたら雪からの仕返しのようにバランスを崩した私は雪の中へと飛び込んだ。
「あ、れ」
「ったく、ほらよ」
「あ、ありがとう…シカマル」
投げ出された私の身体はシカマルの手で支えられていて雪の中に埋まることはなかったのだけれど、見れば色とりどりの箱が私の変わりにそこらじゅう散らばっていた。慌ててシカマルの手から逃れて落ちた箱を一つ一つ拾っていくけれどどれも少しだけ湿ってしまっていて申し訳なくなる。本音を云ってしまえば他の子があげたチョコレートなんてこの場で埋めてしまいたいくらいなのだけれどもチョコレートには罪はない。全て拾い終わるとシカマルは最後に気をつけろよ、と云って私に背を向けサクラが帰った逆の方向の道を辿って行った。あ、チョコレートをあげるのを忘れていた、これじゃあ何の為にこんな寒い中外で待っていたのか無駄骨となる。呆けていた所為でもう見えなくなったシカマルの背中を追いかけようとして、なんだかおかしいことに気が付き足を止めた。
「あ、あれ…?」
鞄の他にチョコレートを入れていた紙袋が忽然と私の目の前から姿を消したのだ。あれれ、どこかに置いてきたいやそんな筈はだってサクラが来た時も帰ったときもあったし、シカマルが来た時もまだ私の足元に存在した筈だ。じゃあどこでと、区切りを付けた途端あのバランスを崩したとき、シカマルが貰ったチョコレートを拾っていたときだと気が付いて慌ててシカマルの背中を追いかけるけれど猫背気味の愛しい幼馴染の背中は見当たらなかった。