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かたりと云う何かが動く音がして身体がそちらを向く。
忍者たるもの物音ひとつくらいでは動揺しない、いちいちそんなことで驚いていたら命が幾つあっても足りないし隙を突かれたら最後あの世逝きなのだから。としてもこの暗闇の中部屋には自分一人しか居ないのだから物音が立つ筈がないのだ、と訝しんだカカシはゆっくりとした歩みで玄関の扉を開いた。がたがたごろごろと云った音をさせて何かがカカシの部屋になだれ込んできたそれを驚いたカカシは忍者らしく俊敏にその場から逃げた。目を見張ると箱が沢山玄関に散らばっており、その中心には後輩のテンゾウと同期のが痛みに嘆いていたところ。緊迫していた空気は一気に落ち着きカカシは呆れた表情で、と云ってもマスクでどういう表情をしているのかは検討もつかないが雰囲気で察する。

「痛ったた、…あ、カカシ先輩!」

は利き手を首元まで上げてよっと云った。
よ、じゃないでしょうがよ、と心中では思っていたがカカシは黙ったまま今度はマスク越しでも分かる明らかに呆れているという溜息を落とした。

「どうしたの、こんな夜中に」
「ちょっと買い過ぎちゃったかな」
「人の話を聞きなさいよ」
「大丈夫大丈夫、」

何が大丈夫なのか、大丈夫だと云っている本人がまず大丈夫ではなさそうなのだがへらりとカカシを見上げて笑っているにカカシはいつものようにぽっきりと折れた。の腕を軽々と引き上げるとざらざらと山になっていた箱達が幾つか地面に叩きつけられる。何なのこの量の箱は、と云うとはまあまあと云うように手を左右にふらつかせた。

カカシより二十センチ以上低いを見下ろす状態でカカシは扉にもたれかかるともう一度何これと聞くときょとんとした顔のがいる。まさか自分自身分からないとでも云うつもりじゃあないだろうなと訝しむとふらつかせていた手を今度ははっきりと違うと否定した。

「見て、分からないんですか?」
「何が?」
「今日ってバレンタインだったでしょう」

ああ、そういえばで思い出した。確かに今日はバレンタインだった。今年も里の女と云う性別の殆どはカカシに渡しているのではないかと云うくらいの凄まじさだったとアンコちゃんから聞いたよと云われてカカシは円を描いた瞳でを見た。確かに今日はバレンタインだった、里中の女がよってきたと云っても否定はしないが。

「もしかしてこれ全部バレンタインチョコレート、?」
「うん、買いすぎちゃって持ってくるの大変だったんですけれどね」

カカシが玄関で通せんぼしている所為で中にチョコレートの箱を入れることが出来ず、入れてとお願いすると笑顔で断られた。

「何で!」
「だってお前、どう考えたってこの量はないでしょ」

全部俺が食べるの、丸々になっちゃったらどーすんのとカカシが云う中でが大丈夫大丈夫カカシ先輩だからと何処からその自信が来るのか謎だ。大体先輩つけるのをあれ程やめろと注意しているのに先輩先輩と云われるとかぶる人物がいるから止めて欲しい。はカカシの壁を難なく通り抜けて箱達をカカシの部屋に入れ込んだ。すると人が一人余裕を持って立てる玄関はそれによって身動きを取るのに困難な状態になる。これを本当にここまで持ってきたの、とカカシは驚くやら呆れるやらで彼女を見下ろすけれどは貰ってくれてありがとうございますと貰った覚えのない箱達を受け取ったことにされているカカシにお礼を述べた。

「だからさ、」
「人の話をちゃんと聞け、でしょ?」

ちゃんと聞いてますよ、と笑顔で云われて何も云い返せなくなる自分が少し情けなく、だけれどもそれが少し良いなんてバレンタインの雰囲気に流されているなと溜息をはいた。

きみの視界をしあわせで埋め尽くしたい