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スリザリンなんてくそくらえ…嫌いなのだけれどもセブルスと会ってから私はスリザリンという存在が嫌いから普通に昇格した。シリウス達からには相変わらず嫌われているけれどセブルスが居る、それだけでそんなことはどうでもよくなった。

「チョコ狩り?」

そう口を開いた私ににこにこといつもの三割増しで笑顔を振りまいているリーマス。何を隠そう今日はバレンタインだった、チョコ狩りと云っていい程彼らはチョコレートを沢山談話室が埋まるほど貰っていて、その沢山の箱の中には勿論私が渡したものもある、義理チョコが。私の本命は何を隠そうセブルスだ。セブルスには一番美しいものを、と頑張って料理が下手な私は作り上げたのだ。(その他は失敗作、リリーには勿論綺麗なのを上げた)その綺麗に包装された箱は私にしては恐ろしく良い出来だった。

後はセブルスにあげるだけだといつも居る場所中庭のベンチとか図書館とかスリザリン生に冷やかされながらもスリザリン寮の前まで行ったけれどセブルスの影は何処にも見当たらなかった。もしかして避けられているのかもと慌てて見たけれどそれはいつものことで笑いながら追いかけるのが愉しかったりする。バレンタイン、折角セブルスへの愛の告白とはいかなくても好きだよ!と云いたかったのにとしょぼんとしていると黒いあの髪の毛が廊下の角へと消えていったのが見えて萎んだ気持ちを一気に膨らませて走り出した。

「セブルス!」

角を曲がった先に居た黒髪男子を呼びとめたけれどそれは奇しくもセブルスじゃなくてシリウスだった。このサラサラヘアーとセブルスを間違えるなんて一生の不覚。とぼやいたら呼び止められたシリウスは厭そうな顔を更にシワを寄せることでより酷く見せた後まだスネイプを探してんのかと声までもが厭だという音だった。いいじゃない別に私の勝手でしょ、と返すとああそうだよな、と口元を引きつらせながら云われた。

「あんな失敗作を俺達に食わせてあいつにはそれをやるのかよ」
「だってシリウス達よりセブルスにはちゃんとしたものをあげたいの」
「云っとくけどあの失敗作すげー不味かったんだぞ!」

確かあれはべたなことに砂糖と塩を間違えて入れてしまいもったいないからとチョコレートを指定の分量よりだいぶ減らして作ったものだった、不味いのは当たり前だ。

「よーしよし、後でちゃんとしたものをあげようね、だからそんなに吠えないで」

だいぶ背の高いシリウスの頭を爪先立ちになりながら撫でると口元が痙攣し始めたのを合図に私は逃げ出した。背後でシリウスが悪役みたいな捨て台詞を吐いているのを笑いながら角を曲がるとシリウスの声は聞こえてこなくなった。ふう、と息を吐いて前を見るとさっきのサラサラへアーとは比べ物にならないくらいに油で艶やかになっている黒髪の後姿を見つけて全速力で駆け寄った。今度は見間違えるものか。

「セブルス!」

セブルスは私を見た途端嬉しそうに顔を歪めた。口元もへの字になり、眉間にはシワを寄せるその姿も格好いい。両手をいっぱいに広げてセブルスへと飛び掛るとそれを避けることなくセブルスの両肩によって私の身体は支えられた。

「もう少し静かに出来ないのか」

何冊かセブルスの手から本が落ちて廊下に響いた。
「だって、セブルスに会えたんだもん。静かにしてられないでしょう」

肩にかかった両腕をそのままセブルスの首に回すと髪の毛が手に振りかかかってくる、それは油でべたべたしていると云っていたシリウス達の言葉とは裏腹に普通の髪質だった。なんだ、シリウス達の嘘つき、そう呟く中セブルスは慌てたようにして離せ、と私の二の腕を掴んだ。

「ぎゃー、セブルスの変態!」
「な、っ…何が変態だ!」

廊下に響いていく変態と云う言葉にセブルスは顔を赤らめて咄嗟に私の二の腕を離した。私だって好きな人に一番肉があるところに触れて欲しくないのだ、と思ったところで肝心なことを思い出して回した両腕を下ろしセブルスを開放するとセブルスは朱い頬のまま私から数歩離れる。だれもとって食べたりしないのに、と見ると信用しないという決心に似たようなものがばしばしと私にぶつかってくるのが分かった。

離れていくのは仕方ないと妥協して服の中にある隠しポケットから人生生きてきた中で一番最高傑作と云ってもいいバレンタインチョコを両手に抱えてセブルスに差し出した。

「な、んだこれは…」

予想外の行動に離れるのを止めたセブルスは本当に不可解な顔をしていて今日が何の日か呆けをかましているのではなく素から来るものだと分かって頬が自然に緩んだ。

「今日はバレンタインです!私が本命であるセブルスに差し上げますー」

セブルスは甘いものが大が付くほど嫌いだと調査済みではあるもののバレンタインにはチョコレートと相場が決まっているし、チョコレートは甘いのが当たり前だ。それに魔法界ではどうやらビターと云うものが売っていない。どれもリーマスの好きそうな甘い甘いものばかりなのだ。それをセブルスにあげるとなるとセブルス自信は嫌がらせの何者でもないと憤慨するんだろうけれども、折角のバレンタインだし、渡したかった。と、殆どを省いて説明する。セブルスは口元を引きつらせながらも「有難く、頂いてく」と素っ気無い返事ではあるものの私の両手に乗った可愛らしい箱を手に彼は図書室への道へと歩いて行った。確かに、見えたのは朱くなった彼の耳。

困るかな、ああでも、すごく困らせたい