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「安倍先生!」

無遠慮に社会科準備室へやってきてはこれまた許可なしに勝手に部屋に入る。嗜めたこと覚えて居ない程だというのに懲りずに今日も清々しいほど遠慮がなかった。何だ、。また要、否神楽坂と何か企んでんのかと云う目つきで見やるとは滅相もございません、いつも安倍先生第一に考えております、と嘘がよくもまあどの口が吐けるものだ。神楽坂と共に俺を訝しがんでは理由を付けてどこへでも付いて行こうとするこの精神はどこをどう間違ったらつくられるのか知りたいものだ。

は神楽坂要と同じ女だが、俺と同じ目的で男子校に潜入している。
前にも会ったことはは覚えているらしいが、生憎神楽坂は覚えていない、まあ無理もないと思うが少し寂しい気もする…おっとそんなことはどうでもいい。女なのに男子校へ入ってきたのを見た時も頭を抱えたがそれ以上にこの二人の行動には頭痛がする。的を射ていないわけではないが何処か外れている答えを導き出すのがこの二人だ。それでも、ほおって置けないのは昔から良く知るからか、否か。

「神楽坂はどうした」
「なんだ先生もしかして、要が好きなんですか?」
「なんでそうなる」

本当に理解不能な脳みその作りをしている。何処をどう解釈をしたらそうなるんだ。は前からそうだ、何かしら要と俺をくっつけたがる。俺としては煩いのが一人居なくて嬉しい限りなんだが、それを聞いているこいつではない。きゃあ、今はやりの先生と生徒の禁断愛ですね!と一人愉しそうに話しているはほっておいてそろそろ仕事にうつりたいところなんだが。

「だって要が心配なんでしょう」
「莫迦か、お前は」
「莫迦ですよーだ、どうせ昔から先生は要一筋ですもんね」
「…、はあ」

本当に呆れる。心配なのはお前さんも一緒だ莫迦が、どっちにしたって俺にとっては悩み事の種がひとつふたつと増える問題児、出来ればこのまま黙っていて欲しい。大体一筋とか云うよりはが昔から俺と小さい要を一緒にいるように仕向けていたのではないか。今思い起こせばそうなんだと解る。要、要と実際の所こいつは要が好きなのだろう。だから金魚の糞の金魚の方の俺にこんなにも突っかかるのだろう。莫迦莫迦しい茶番劇に付き合えるほど暇じゃないんだ、俺は。

「用がないならもう帰れ、邪魔だ」
「あ、残念です、用はあります」
「あ?」

ガラが悪い、ですよ教職員とあろうものがそんなにガラが悪くてはもてませんよ、とまた的の外れたことを云ってくれる。大体男子校でもててどうするんだもてて。女からなら大歓迎だが男になど好かれても嬉しいわけがない。は突然待って下さいね、と云い男子制服の裾を上げて何やら探りはじめたがお目当てのものが見つからないらしく困惑したような声を出しているのをじいと傍観しておく。

「あった!」

どこにしまえば見当たらなくなくなるんだと思いながらも何処からか出した箱を俺に付きつけてはいと笑顔を湛えながらはそれを俺の腕に押し付けた。何なんだ、これはと云う目つきでを見ればやだなあ、今日はバレンタインでしょう、乙女が唯一勇気を出して告白できる日ですと自信たっぷりに云うものだから思い切り呆れたように溜息を吐き出してやる。

「お前さん、幾ら女だと知っているからってなあ、まだ男としているんだろうが」
「今だけ、この社会科準備室を出るまでは恋する女の子です」
「無理やりだな、」
「そうでもしないと安倍先生、受け取ってくれなさそうですもん」
「……、はあ」
「大好きですよー、安倍先生」

禁断の恋ですね!とやけに嬉しそうに箱と一緒に残して己の云いたいことを云うだけ云って出て行ってしまった。この社会科準備室を出るまでが女なのだとしたらこれもの作戦なのだろう。倍近く違う年の子供に振り回されるなんて、俺としたことがどうかしてやがる。そう思いつつも口の端が上がるのを止められなかった。

やさしい記念日の作り方