答えはここに

「おぬしが好きだ」

数日前に師叔から告白された。それは唐突で師叔の誘いでいつものように川辺に腰を下ろし釣り糸を垂らした時だった。珍しく普賢がいないなあと思いながら他愛のない話をしていた筈なのだけれどもいつの間にか隣を向くといつになく真剣な顔の師叔が目に入ってどうしたらいいのか分かず視線を宙に泳がせていた、そんな時だ。師叔がそう云ったのは。私は驚いて、気が動転してしまい垂らしていた釣り糸どころか竿まで川に落としてしまい慌てて拾いに行こうと立ち上がったのに師叔に肩を軽く捕まれ、真剣な目にも捕まえられた。

ゆらりゆらりと流れて行く竿をどうにかして早く取りに行かなくちゃとは思っているのだけれども師叔が掴んだ私の肩から師叔の気持ちが流れ込んできているような気がして触れられた所だけが熱に侵されているような熱さを持っていた。

「おぬしは、どうなのだ」
「……そ、っ」

半腰状態の体勢が辛い。師叔の掌は依然として肩から離れてくれず私を見ている。それに胸が縮んだ気がしたけれど、気は肩に置かれた手とゆっくりだが着々と遠くに流されていく竿の方を向いていてしかとは分からない。師叔、と掠れた声になって音に出すと何だ、と少し和らいだような瞳で私を見た、師叔は師叔でそういう対象で見た事がなかった。しいて云うならば隣に居て安心出来る家族のようなものだと思っていた、その家族のような師叔から突然愛の告白されたところでただ戸惑ってしまうだけで頭は上手く考えられないのだ。この体勢にも雰囲気にも耐えがたくなった頃には師叔は川の中に落ちていた、気が動転していた私が思わず突き落としてしまった所為だ。

川から全身ずぶ濡れで上がってきた師叔からは一言も発されず、一度私の頭を撫でただけだったそのもう片方の手には私が落としてしまった釣り竿が握られていた。


それからと云うもの毎日のように顔を見せていた師叔が顔を見せなくなり、家族のような安心感は遠い昔に感じた。師叔は怒っているのだろうか、相も変わらず修行場には顔を出さず私一人で居る事数週間。一度も顔を見せて居ない師叔に淋しさにも似たような気持ちになり、夜寝付けず考えるのは師叔一色だった。思い出せば胸はどくどくと運動している時のような速さになり長距離走った時よりも痛くなる胸に私は師叔のことを家族の対象ではなかったのだと気付かされた。夜が明け、一睡もしていないのに私は服を着替えて師叔の部屋へと走った、この胸の痛みと高鳴りの正体を云いに。

「い、ない…?」

扉を幾度となく叩いても中からは物音ひとつしない、それを不審に思い扉を開くとそこには綺麗な部屋と布団が置いてあるだけで師叔はそのどこにも寝てはいなかった。つきん、と胸が一度淋しそうに痛んだのを境に血液は全身を駆け巡る。

「望ちゃんなら昨日、原始天尊様から任を命じられて下界に行っちゃったよ」

任自体は結構前に聞かされていたみたいだけれど、と振り向くと普賢が少し淋しげに眉を下げ微笑んでいた。そうなんだ、と以外にもちゃんと出た声に驚いていると普賢が危ないみたいなんだ、と微笑みが深くなった気がした。