うみのイルカ先生に告白したアカデミー卒業式の日、見事生徒として好きだと云われてしまった。これからもそれ以上の想いは沸かないと云われ泣くのかとイルカ先生の顔が云っていたが以外にも私は泣けなくてそれは自分が一番驚いた。その場でははいそうですかと云って引き下がった私だけれども下忍になって生活していく中でイルカ先生の事を諦めきれていない自分に気がついて、振られたのだと実感が沸いてきた丁度その頃同じ下忍の男の子が好きだと云ってくれた。イルカ先生を忘れられる好機だと思い付き合ったその日にキスをせがまれてベンチに押し倒されそうになりながら拒否している所を偶然通ったイルカ先生に見られてしまった。そういえばこの公園はアカデミーの近くにあったっけと思い出した時にはもう遅くベンチの背もたれの向こう側からばっちりと此方を凝視しているイルカ先生と目が合ってしまった。私はどうしようかとぐるぐるとしている思考の中でつい目の前の男の子の存在を忘れてしまい体重が身体に降ってくる、厭だと目を思い切り瞑った。
しゅん、という風を切る音が耳を掠めると、同時に腕に食い込むように強く逞しい自分以外の指先が二の腕と膝小僧を捕まえていた。どきりと鳴る心臓。さっきの同年代の男の子には感じなかった高鳴りが胸を弾ませる感覚で私はこの頬に当たる胸や、持ち上げてくれている腕でそれが自分の待ち望んでいた人のものだと直ぐに気がついた。驚くよりも、嬉しさの方が勝った。
「いるか、せんせい…?」
目蓋を持ち上げると広がるのは緑色の何か。それが下忍以上の忍が着ているものの色に視線を上に向けると先生が困ったように笑いながら私を見ていた。その笑顔にどう反応を返せば分からなかった私の耳に入ってきたものは自分の名前だった。誰の声だっけ、ああ、彼氏になったばかりの男の子の声だ、と声を辿ると遠めからでも分かるくらいに彼は怒りを露にしていた。怒気を含ませた目を担任じゃなかったにしてもアカデミーの先生で中忍のイルカ先生に向けるのはどうかと思うけれども彼に反論出来るならば先ほどだってちゃんと拒んだはずで私は元々開いて居ない口元を更にかみ締めた。
イルカ先生が真っ直ぐに眼差しを向けると彼は一瞬にしてしゅんといきりだった表情をなくし、早々とそこから走り去って行くのをイルカ先生の腕の中で見ていた。ああ、凄いなあと感じながら未だイルカ先生の腕の中に収まっていることに対して急に身体が熱を帯びた、早く離してほしい、ともぞもぞとするとイルカ先生の爪が服に少しだけ食い込んで驚いた。顔を上げるとイルカ先生と視線がしかと交じり合う。
「先生、」
「もっと自分を大事にしてくれないか」
「…え」
「、はあ。こんなおじさんの何処がいいんだろうな、お前は」
自嘲気味に笑うイルカ先生の食い込む爪が、余計に鮮明に脳を働かせてくれて、現実味のないイルカ先生の言葉を私はその痛みでなんとかこれが今起きていることだと実感する事が出来た。私の頭の中ではもう、数時間前に付き合い始めたばかりの彼へどう別れを切り出そうか、それともさっきのでもう縁が切れたのかと云うことだけがぐるぐるしていた。