幸せになろう

街に買い物に出掛けていたら偶然カカシさんとその彼女とばったりと鉢合わせしてしまった。驚いて声も出ない私にカカシさんはいつものように笑って、偶然だねと云ったのだけれども私は驚きすぎていて何も云えずに辛うじて小さく声を出すことが出来た。隣の彼女さんは見る限り一般人だがちゃんと締まるところは締まっていて、顔も綺麗にお化粧もされている。世間で云う美人の中でもとびきりの美人だ。隣の女はカカシさんの腕に自分の両腕を蛇のようにするりと巻きつけてだあれ、と私の方を見ずにカカシさんに尋ねた。

「仕事仲間の、さん」

カカシさんは私の方を見てにこりとまた笑う、その時にマスクに微妙にシワが出来て本当に笑っているんだと思うと胸が痛んだ。じゃあまた、と紙袋を持ち直しながら二人の隣をすり抜ける時腕を巻きつけた女のキツイ香水の匂いが鼻を掠め、無駄に痛みを貰う事となった。カカシさんはああいうタイプが好きなんだと思いながら自分の掌を開いてみると肉刺やら、クナイを持ったときに出来た真新しい傷から直りかけた古い傷まで掌全体に広がっていた。さっきのような綺麗な洋服に纏われた人と違ういつも忍服の下に着ている服。ぎゅうと指を掌の中に隠すと爪が食い込んで少し痛かった。

「あれ、さん」
「……、っ」

我に返ると知らない公園のベンチに座っていて顔を上げるとそこには任務の帰りなのか所々汚れのついた忍服を着ているテンゾウさんだった。テンゾウさんは不思議そうにして私にここに居る理由を尋ねてくるのを云いたくなかった私はそのまま言葉を返した。テンゾウさんは家の近所なのでと少し笑い顔を作りながら云ったそれに私は何でか堪らなくなり持っていた紙袋を袋口を握り締めすぎてぐちゃぐちゃにしてしまった。忍たるものこんなことで気持ちを揺らがせていたら駄目だと分かってはいたものの戻ってくる記憶の欠片に気持ちを制御する事は出来なかった。下を向くと涙が目に溜まるのが分かってそれをテンゾウさんに見られたくなく、目を思い切り閉じるとそれは目蓋の中では多すぎてあまった雫はぐちゃぐちゃになった紙袋へと落ちた。テンゾウさんの立ち位置は変らずそこに存在していて私はどうしようもない安心感と悲しみに打ちひしがれた、すると何か少しの重みが頭の上に乗っかり、それは戸惑った手つきでだけれどもとても優しく頭を撫でる。いつの間に、と顔をあげようとするもテンゾウさんに制止の言葉をかけられ上を向く事は出来なかった。胸が詰まった。

「……、て、んぞ…っさ、」
「うん」

それだけ、たったそれだけしか交わさなかったのに止めようと必死になった涙は目から溢れ、止まらなくなった。身体中の水分が管を通り瞳から次々と出て行くのをテンゾウさんは黙って手のぬくもりをくれた。私ははたけカカシが好きだった。