電話をちょうだいね

日曜日には連絡をすると約束してから一週間とちょっと相変わらず家の電話はうんともすんとも云わない。一日中電話の前で座っているのもなんだからと他のことに手をつけた途端鳴りだす電話に急いで彼かもと出て見ても声を聞くとがっくりと肩を落とす。その度声のトーンが下がるものだから相手側は訳が分からないだろう。もうそうなると電話の前で他の事をしようと洗濯物を全て持ってきて床で畳んだら潜んでいた埃が洗濯したばかりの洋服について溜息が漏れた。それから一週間とちょっと電話元で作業するのが莫迦莫迦しくなってきて一週間と少し、過ぎた頃から普段通りの場所で作業をするようになると一日中気になってばかりいた電話が全く気にならなくなった。確かに会いに行こうと思えば徒歩で三十分、遠くない距離な筈なのに何故か足は思うように行ってくれないのだ。そして一週間とちょっと前彼から暫くは家に来ないでねと云われたその代わりに電話をくれるという約束を交わした筈だと云うのにその約束の日からこんなに経っても一回も来ないとはどういうことなのだろうか。

一ノ宮家に突撃しても良かったのだけれども、もし万が一遊びとかではなく真面目に仕事関係の事だったらと考えるとどうしてもいけなかった。たまにはちゃんと恋人同士らしい事がしたいのに勘ちゃんはいつも春華ちゃんと共に居て三人で過ごすことばかりが多い。折角、勇気を振り絞った告白を快く受けてくれた喜びが沈んでいくばかりだと洗濯のシワをぱん、と伸ばした。(りりりり、)電話特有の煩さが部屋を駆け巡る。洗濯物を蹴散らして立ち上がった瞬間電話元へ小走り。

「は、はい!です」
「……」
「もしもし?」

電話の向こうから、ヨーコちゃんらしき女の子の声と春華ちゃんらしき男の人の声が聴こえては勘ちゃんらしき男の人の慌てたような声が聴こえたけれど一向に電話口から私に向かって発せられる声はなく、暫く黙って電話の向こうの様子を伺っていると何度か雑音が入った少しの間を挟んで、もしもし、と返ってきた。

「か、勘ちゃん…?」
、ちゃん。ごめんね、電話遅くなっちゃって…」

勘ちゃんは電話の向こう側で少し照れくさそうな声を出しながらええと、と繋げた。私はうん、と勘ちゃんのこの一週間と数日の事を聴きながら、相槌以外は何も云えなかった。一週間と数日の事に対しての怒りなんてとっくの前に身体から出て行ってしまった。