初めから可笑しな、と云ったら失礼に値するから訂正する。少し変わった子だと思っていた。カカシ先輩の代役で第七班の隊長になったまでは僕も先輩に一歩近づいたのではと嬉しかったりもした。だが根からの配属、顔合わせ当初から反りが合わないだろうと危惧はしていた、が此処までとはと頭を抱える事になる。サスケの変わりに根からサイ、ナルト、サクラ、そしてもう一人。彼女は班に足りないものを補う為に入れたのだと五代目は云っていたが見た限りでは何を補ってくれるのか理解に苦しんだ。第七班らしいがナルト達程サスケに執着しているように見えず、今回も途中までは班編成の中で彼女は入っていなかったらしい。目の前で勝手に云い合いを始めるナルトとサイに溜息をついたのは僕だけではなくサクラの隣に居る彼女もまた同じように溜息を落とし喧嘩の成り行きを見守っていた。サクラが止めようと声を張り上げている間、手助けする事もなく何処か遠くを見ているかのような彼女は一目惹く存在だった。

どうにか収集をつけた僕は忍具の補充等を云い渡し一旦解散をしたのだが、消えて居なくなる三人とは違いだけは僕の目の前から消えずに佇んでいた。彼女の顔を見れば視線がしかと合わさるにも関わらず動こうとはしない。眉を寄せた僕に首を傾げた彼女、端から見なくとも可笑しい意思表示だ。

「戻らないのかい?」

態度を言葉にして彼女に投げ掛けた。は首の傾げたままどういう事なのか理解しようと数秒、正位置に首を戻した後ゆるりと弧を描いた唇に呆気に取られてしまった。

「もう準備は整っているので必要ありません」

初めて聞いた彼女の声は酷く無機質で、根の者であるサイと同等かそれ以上としても過言ではない。高くも低くも無い音は静かに聴覚を刺激した。

「集合場所は正門ですよね、ヤマト隊長も戻らなくていいのですか」
「ああ」

澄んだ瞳、くるりとした愛らしさを持つ少女特有の空気に混じり大人びた態度が彼女の内面を可笑しくさせているのだろうか。彼女の質問に一瞬戸惑った、準備は常時万端な為戻る必要もないのだがこのまま変わった少女と共に正門で一時間も待ちぼうけしているのは酷く滑稽だ。生憎処世術が上手く備わっていない僕に彼女と長い時間を待つという苦痛は出来れば避けて通りたい。一時間も時間を取るんじゃあなかったと後悔した処で遅い、は相変わらず唇を緩めてはいるが内面は全く違った感情が渦巻いているのだろうと容易に想像出来るものだった。さてどうしようといつもの癖でヘッドギアを人差し指で何度か叩いてしまっていて慌てて引っ込めるも遅かった。

「じゃあ何処かで時間を潰してきます」
ゆるりと笑う彼女は第七班のメンバーだったとは信じ難い。さてどうしようか、の難問をあっさりと破ってしまう少女に思わず驚いてしまった、僕とあろうものが何たる失態だ。

「あ…ああ、分かった。遅れないようにね」
「はい、では」

消える前に残した笑いが先程の僕の癖を見破ったものだと瞬時に悟り、些か気まずい思いが胸を侵食する前に彼女に習ってその場から姿を消す事にした。時間より数分前に正門へ向かうと案の定サイとが到着していた。何をするでもなく一定の距離を保ったままお互い口を聞いた様子はなく、サイは貼り付けた笑顔を絶やさずに至っては地面を燃やそうと必死で願掛けしているように見えた。此方に気が付いたのはやはりサイの方が早かった、面を付けたような笑い方はそこでも健在であり上忍である僕であっても彼の心は読み取る事は困難だった。結局地面への願掛けは叶わず仕舞いのも顔を上げ僕を見た。思わず胸に緊張が走り、情けない事に身体が硬直状態に入りそうだったけれどその前に彼女が(ヤマト隊長)と頬を緩めたので助かった。(別の意味で呆気に取られかけた、)澄みきった瞳は暗殺を日常のようにこなしてきた僕の身体に毒だと思う。まあ、そんな素振りはおくびにも出さないけれども。

「サクラとナルトは未だかな」
「もう少しで来るんじゃあないですか?…ほら、」

の言葉が呪文のように胸に響く。まさか、僕が、と思いながら彼女の云う通り顔を目線の方へと向けると些か離れた処で桜色と金色がゆらゆらとしているのが見えた。金色が大きく揺らいだかと思えば、少しずつ縮まってきていた距離を多いに減らそうと走り出し、それに怒鳴り声を上げながら付いていく桜色。先が思い遣られると癖を出しかけている事を右手を胸辺りまで来て気付く。

「ほらね、云った通りでしょう?ヤマト隊長」

胸の辺りまで止まった右手を目の前に彼女は綺麗に笑いながら僕の名前を呼んだ。どんな意味合いを込めて呟いたのだろうと頭で言葉の処理を急いでいる中、何事も無いかのように相槌を打った。空気が違う、そう感覚が云うと同時に口癖が特徴的な金色の少年が集合場所へと足を止めた。その数秒後、桜色の少女も着き金色を五代目火影直伝の怪力で殴りつけた。(さっきの間に何があったのだろうかと聞く気分にはなれなかった)一気に騒がしくなった集合場所の真ん中であっても僕の頭の中では彼女の何かを含んだ笑いと声が反芻して耳から離れていかなかった。まるで初恋を経験し、戸惑っている少年のようだ。

2011/03/07|は|辱めに似た恋などあっていいのか