は端っこに置かれた、スペードのカードを引いた。捲るとそこにはキングが死から眼を背けていた。あまりいい感じがしないと、睨みつけたとしても、紙が意思を持っているわけでもないから、意味を為さない。ソファーに沈み込んで、優雅にティーカップを手にしている男は、それを嘲笑うかのようだった。


「……教授」
「何だ」
「これ、何も起こらないですね」
「………そういう時もあろう」
「……教授にしては珍しく認める時もあるんですね、ビックリ!」
「今更取り繕ったところで、お前の質は知れているだろう。白々しいな」
「酷いことを云っている自覚はありますか」
「ないが」
「どっちにしても酷いですね、知ってましたが」

引いたトランプを教授の目の前で、見せつけるように、ひらひらと舞わせる。すると、やや機嫌を損ねてしまったようで、高みの見物を決め込んでいた、教授の腰がソファーから上がる。

「反発があるのならば、聞こう」
「きょ、教授…聞こうと云う姿勢ではない、ですよね」

細身の上、無駄に伸びたと思われる身長が、余計に畏怖の念を増幅させてくれて、一歩、足を進められるだけで張っていた威勢は瞬く間にしぼんでいく。教授は、心の限り、丁寧と柔らかさを足して、唇を広げていくのだけれど、それがとてつもなく恐ろしい。

「おが屑だらけの、その脳みそから弾き出される意見とやらが無意義で終わることを理解しつつも、態々聞こうと云うのだ。それだけでも感謝すべきであろう」

「感謝って、侮辱されっぱなしで私の心は早くも壊れそうなんですけれど……」
「貴様がこんな言葉ごときで、情緒面を破壊されているのならば、一年生の時点で果たされている」
「うぐっ………」

近場にある本棚へと、体重をかけて腕と足を組む、教授は様になる。悔しいし、認めたくはないけれども、格好いいと思う。穏やかに作られた笑いから、溢れる言葉は決していいものではないのに、長年の修行の成果か、ちっとも打撃を与えるには至らない。これもそれも全て、隠している恋心のせい、隠れていないかもしれないけれど。

「発言権を与えてやったのだ、意見を聞こうではないか」
「え……あ、なんか、………すみません」
「我輩がそれで、満足するとでも?」
「……(悪魔め)」
「賛辞と受け取ろう」
「読心術を使うなんて、卑怯です。私にも教えてください」
「貴様には一生無理だろうな。隠伏する事から学べ」
「これでも隠していることだってあるんですよ!」

本棚から一向に動く気配のない教授は、柔和だった口元を普段通りに戻し、皮肉屋らしく歪めた。私は子供らしく、ふんだ、教授になんて、分かるものか、と顔を背けて、教授の一々を胸に入れないように遮断した。

「愚かしい。口にしてしまえば、秘事ではない」
「いいんです。隠し事なんてどうせ、私には出来ませんから」
「……フッ…」
「笑わないで下さいっ」
「単純な回路だな」

嘲りは幾度となくされてきたから、慣れているけれど、少しくらいの手助けはしてくれても、いいんじゃないだろうかと思う時は多々ある。タイル張りの床から、反響される靴音に、視線を戻せば、思いの外近くに、背の高さだけが立派な教授が立っていた。

「…なんですか」

「は、はい」
「それが貴様であろう」
「き、急にどうしたんですか……」
「筒抜け、ということをお忘れかな」

教授にしては、珍しく、端折る言葉を丁寧に説明をしてくれる、と思ったら、そういうこと。数秒間の時間を要する、私の脳内が、おが屑だらけという当たらずとも遠からずである証明をしてくれる教授に、少なからず悔しさは感じる。それを含めて教授のことが好きで仕方ないんだ、と自覚を持たせてくれるということは、少しは期待してもいいってことですか、教授!

この後、勢いに任せて抱きつこうとして盛大に叩かれたから、もう教授の気持ちはわからない!