「師叔、太公望師叔ー」

耳元で叫んでも彼は胡坐をかきながらぐうぐうと寝息を立てて寝ていた、にしてもよくこの態勢で寝れるものだと少し感心する。これは決して誉めているわけじゃない厭きれているのだ、と云っておく。そうしなければ後で何処からか聞きつけた師叔が調子に乗るからだ。莫迦らしいことでも直ぐに笑顔になる師叔は嫌いではないが、何処か癪に触る。

全く、と云っていい程仕事をしない、師叔は周の軍師となった癖にいつもハリセンを持ち歩いている名前は伏せておくがその人に追いかけられては逃亡を図り探しに来て見れば寝ているというのが常だ。そして今日も師叔探しに狩り出された私たちは、こうやって探しに行くのだけど真っ先に見つけてしまうのがどういうわけか私なわけで。(私たちとは天化や楊ゼン辺りの人のことを指す)別に師叔がいる場所を把握しているわけではない、私が密かに気に入って度々来ている場所に何故か師叔が寝ているのだ。そして疑問になる。こうやってお気に入りの場所に師叔は寝ているが、自分が来たいと思うその度々の時には師叔と鉢合わせすることは今まで一度もなかった。

こっそりと顔を覗いてみれば伏せられているまつ毛は意外にも長く、よく見ないと分からなかったが目の下に薄っすらと隈があった。それは近くで見ないとわからないものだったが此処二日三日で出来たものではなさそうだ。

(起こしたくても起こせないじゃない……)

普段はこうやってサボっている癖に誰も見ていないところで頑張ってそれを誰に云うでもなくいる彼を見てしまったら、たとえハリセンを持った怖い人にハリセンで殴られようがこの状態の師叔を引きずっていくようなことは出来ないと感じた。こういうところで師叔に弱い自分が酷く恨めしくなるときがしばしばあるのだけれども、たまにそんな自分が嫌いではないと感じる時もあって。乙女心は複雑だ、という言葉が頭に浮かんで消えた。そういうつもりではないんだ、そういうつもりでは。

このまま戻るのも面倒になって師叔の背中側に腰掛ければ微かに感じるぬくもりに胸が和む。
仲間たち、私にとってもきっと師叔がいなければこんな風に感じることはないんじゃないか。こういう時に彼の偉大さを感じて、そして少しばかり名誉挽回される。師叔の背中にもたれ込んでといってもあまり負担をかけない程度にして、ゆっくり目を閉じた。

小さな吐息が聞こえるようになった頃、背中に丁度いい程の重みと、感じるぬくもりに太公望はいつも見せるどんな表情よりも優しく微笑んだ。

太陽の陽だまりにこんにちは
20090708|策士ですからね、来る前から起きてましたという話