スープーちゃんに跨って忽然と姿を消した師叔を探いているとごう、と大きな風が一人と一匹の間に通りすぎた。強い風っスねとスープーちゃんが云った。私は必死に飛ばされないようにスープーちゃんの角を掴んだ、痛くないのかなと心配になったけれど普通に会話をしているところから痛くないらしい。師叔は本当に何処に行ってしまったのだろう、スープーちゃんを置いて、私を置いて武吉君を置いて、皆を置いて何処へ消えてしまったのだろう。探そうにも世界は果てしなく広い上に師叔は始祖の力を持っているのだから私達から逃れることなんてわけないのだろう。姿までとはいかなくても声くらい聞かせてくれてもいいのに、つい最近まで死んでいると思って悲しんでいた私達の悲しみを返して欲しい。

「そうっす、薄情ものっス」

スープーちゃんは憤慨したような声色で、だけれども少し淋しげに云ったそれを聞いて本当にそうだと角を一段と強く握り締めた。そうだ、私達がどれだけ師叔の事を思ってどれだけ悲しんだか、それなのに未だ姿を見せることはしない癖に西岐城や臨潼関には顔をだしたと云う。

「なんだか腹が立ってきた」
「え、?」
「だってそうじゃない!こんなにも探しているのにそんな私達を見て愉しんでいるんだきっと!」

ふよふよとしているスープーちゃんは苦笑いのような声を出した。ご主人はそういう人っすと云われたらぐうの音も出ない。だけれども一度苛々し始めた感情は中々収まってはくれずスープーちゃんに頼んで原っぱに降りる事にした。

休憩に草を食べに行ったスープーちゃんに手を振り私は横になった。西岐城に居た頃は良く楊ゼンの目を盗んで師叔と一緒に原っぱに昼寝をしたものだ。桃も良く倉庫から盗んで食べている師叔を追いかけた後にたどり着いたのはいつも草の上だった。いつも、草原が師叔と一緒に居る安らぎの場所だったのに戦いが終わってから、師叔が居なくなってから私は草原に行く事が出来なくなっていたそんな久しぶりに寝転んだ草原はふんわりと草の良い匂いで私を包むけれど、何かが物足りない。ころりと身体を横にすると遠くで草を食べているスープーちゃんが見えた。

莫迦師叔、と心の中で悪態を付くと余計にその寂しさは現実味を帯びていて、私はどうしようもなく悲しくなった。さっきまで苛々としていたのに今は全然そんなことなく、切なさに胸が押しつぶされそうになっていた。一度でも良いから会いたい。

「…
「……っ!」

一瞬だけ温かい空気と名前を呼ばれた気がしてスープーちゃんが居る逆方向を見るとそこには風に揺らされている草しかなかった。見渡す限り緑が広がっているだけだ。スープーちゃんが私を呼んでいる声がした。私は草を食べ終わったスープーちゃんに向かって大きく手を振り走り出した。もう背に感じた温かさへとは振り向くことはしなかった。変わりに頭の中には、と呼んだ空気の音だけが反芻されているだけ。

エンドレスコール
2010/04/02