やってしまったと思った時には既にそれは好きな方向へと転がっていく。 薄い桃色をした果物、彼の大好きな桃。それがころりこりろと複数冒険をしにいってしまい、腰を屈めながらそれを追いかけるに誰も手を差し伸べる事無く笑いながら去っていく。それを恨めしく思う暇もなくそれらを追いかけるけれども急斜面だったその場所では腰を屈めながらの彼女が追いつく事はない。ああ、待ってと叫んでみてもそれが生き物だったらまだしも意思のない食べ物なのだから止まってくれる筈もなく転がっていく。否意思があるからこそこうして食べられないように逃げているのかもしれないけれども。

「待って…!」
声を張り上げてそれらに静止をかけても彼らは斜面を愉しそうに降りていく。しまいに彼女は果物達に追いつけなくなり、同時に頭の隅で怒られる事を想像してげんなりした。

「全く、お主はいつもドジばかり踏んでおる」

頭上に響いた呆れ声に顔を向ければ、彼女の予測通り同じ仙人界で修行を積んでいた、今は封神計画を遂行する者同士太公望が居た。嗚呼何て間の悪いと太公望を見やれば彼は大げさに溜息をつき、与えられた宝具を一振りすれば落ちていた桃達は彼の腕の中。どうせならば風の属性を自分に与えてくれれば善かった等とこんな時に考えてしまうのは仕方ない。彼の大好きな桃達は坂道の途中のでこぼこした石にぶつけたりしながら下っていた所為で所々青痣のようになっていた。それを太公望は可哀想だと嘆く。

「やはり買い物は他の者に任せれば善かったのう」

そう云いながら歩き出す背中を追いかけていけば太公望は当たり前のように不可抗力で潰れた桃を口に含んだ。は何か文句を云おうと口を開きかけたが太公望の腕の中に納まった桃の一つが彼女の口に押し込まれては何も発せまい。

「……、」
「何もそんな怖い顔で睨む事は無かろう、」
「…何でこんな、もう知らない」
「おおう、怖いのう」

恐怖なんて感じていない癖に、とは云わずに黙って口に入れられた桃を齧れば、黒く変色した部分だけがやけに甘く感じた。美味しい、とは絶対口が裂けても云うものかと意地を張るを知っているのか太公望は齧りかけの桃を口に放り込みながら笑った。

四不象が草を食べながら主の帰りを見、嗚呼と叫べば太公望は一層笑いを強くし手元にある桃をまた一つ齧り、霊獣と少女(見掛け)の批難をものとはせず仕舞いにはいつもの奇妙な笑い声を上げた。駄目道士、と言葉を紡ぐ四不象に賛同する気を早速失せたは太公望が寄越した桃を食べ始めた。

黒く変色した痛みを踏み潰す
2010/10/16