2011/03/22|太公望 (グローブしていない…) いつもと何かが違うと彼女が眼を凝らせば、それは直ぐに分かった。普段ならば隠れて見えない手の甲が書物の間から覗いて見える。筆を使うのにグローブは不要だからと一人で納得しながら寝ている事を善い事に彼女は軍師を産毛が分かる程至近距離で観察する。男である軍師は手入れなど全く持ってしてないであろうに女の肌以上にきめ細かく、もう直ぐ八十になるとは皆目思えなかった。彼女は自然と自身の肌に触れ羨ましさを滲ませた。そうしてそっと睫毛が垂れている軍師の頬に指先を寄せた。 「きゃっ…」 小さな悲鳴を上げた彼女は突然伸びてきた腕に驚き、反射的に身体を引くのだがその時既に彼女の身体は軍師の腕で捕らえられていた。机越しで見ていれば善かった等と意味の無い後悔をしながら彼女は軍師を見遣った。
「起きていたのですか」
「流石に頬に触れられたら眼が覚めるわ」 撫でられた腕から灼熱の焔が湧き上がるような感覚が彼女を襲い、徐々に引き寄せられている身体をどうにかして遠ざけようと試みた。 「そう思うのならば、何故逃げるのだ?」 細い身体の持ち主である軍師は誰から見てもそこまで力があるようには見えないのだが彼女の身体は彼に近づいていく。抗っている彼女を見るのが些か愉しげであり抗議の声を上げようとするものならば先程の言葉が頭を過ぎり何も云えなくなる。 「おぬしは甘いのだ」 そういうと軍師は寄せた身体の細い腕の先にある指先へ噛み付いた。驚いた彼女にさして興味もないのか軍師は音を立てて吸い付く、微かな音量であるというのに彼女からしてみれば羞恥心を仰ぐものであるが為に部屋全体に響いているという錯覚を覚えた。その頃には逃げ腰になっていた身体は硬直状態に陥ってしまい、軍師の思惑通りになっていた。やっとの事で洩れた言葉は彼女でも何を云っているのか理解はしていないだろう。
「す、師叔…!——…何をっ!」 舌先離れた彼女の指先は他の白い指先とは違い朱く染まり、まるで彼女の感情がそっくりそのまま指先に出たようなものだった。軍師の直接的な言葉が彼女を貫き、更に息が止まるのではないかと云う程、詰まり、心臓が跳ね上がった。
指先にキスマーク
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2011/04/04|王天君 王天君は自分の事をどのような感情下に置いているのだろう、と彼を見るけれども視線を意に解せずと云った相も変わらずの態度である。彼は、彼はと考えている内に時間だけは過ぎていた。道士である私には時間等あまり関係のないものだとしても些か勿体無いような気がしてしまう。これはきっと敵側である元始天尊の弟子の太公望の所為かもしれない。最もあいつが時間を有意義に使っているのかと問われれば否定しか浮かばないのだが。けれども王天君が気にしているから自然と眼に付いてしまう。
「いつもそこにいんだな」
やっとこっちを向いてくれたのだ、自分の中で満足のいく笑みを彼に向ければ、自負を粉々にする言葉が返ってきた。
「…本当!?」
傷の数だけ美しい人
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title:シャーリーハイツ|honey bunch |