むくりと起き上がるも寝た気がしなくて頭が鈍器で殴られた後かのような痛みが走る。枕に顔を押し付けてもう一度寝ようとするが目覚めてしまった後は寝ることができないことを自分で知っていた。しょうがないと思い眠気覚ましに顔を洗うため、洗面所の鏡を覗き込んだ時に昨日までは気づかなかった痕が首筋に付いていたけれど気にしないまま一日が始まった。

昨日と同じく部屋の片付けをする力もなく、行く場所もないはぶらぶらと歩いていた。昨日みたいにカカシに会えればいいが昨日でも十分過ぎる程迷惑をかけたのだから今日もまた、というわけにはいかないといつの間にかカカシ宅へと進んでいた足取りはその思いなおしによりアパートからは遠ざかった。本音を云えばこの二日ばかりでもう彼に会いたいなんて思っている自分がいて、帰ったとしてもそこからは一歩も進展がないことも分かっていて、だけれどもこの寂しさは彼にしか癒せないことも知っていた。

頑固な自分の性格と同じような性格の我愛羅、どちらかと云えば素直じゃないのは私の方で。初めての喧嘩もそうだった、お前は可愛げがないと我愛羅に云われたくない言葉を云われて激怒した私は大人気ないながらにも拗ねてしまい半日無視を決め込んだ日があった。丁度休みというのもあって我愛羅が困っているのを知りつつも、彼には背を向けて半日窓越しの外を眺めていたりした時そんな私の様子に母親のようなため息を吐き、と名前を呼ばれただけで怒りが嘘のように萎んだ。

ねーちゃん?」
「…ん?」

自分の名前が背中から放たれて振り向くと見覚えのあるようなだけれど誰だかわからなくとその人物との間に沈黙が訪れるのだがすぐにそれは終わった。久しぶりに見た金色の髪、人懐っこい笑顔。うずまきナルトだ。

「あ!やっぱりねーちゃんだってばよ」
「……な、ると…ナルトなの?久しぶりね!なんか暫く見ない内に格好よくなったね」
「ああ、久しぶりだってば。そーゆうねーちゃんは変わってないぜ!」
「あのねえ、そこは嘘でも綺麗になったとかそういうことを云いなさい」
「ええー…嘘なんてつけねえもん、俺」

そこは嘘でもいいから云え、という目でナルトを睨むと悪びれもなくにししと笑う。身長も追い抜かされて私の方がいくらか小さくなってしまった。けれど無邪気な笑顔は昔から変わっていない。それがなんだか嬉しくて心がほっとしたのも束の間ナルトはあれという表情をし、その口から発せられる名前は我愛羅。

過剰すぎる肩の揺れにナルトは気がついていないことを祈る。
ナルトは私にとっても我愛羅にとっても特別な存在だ。私と彼がナルトに対する想いは違えど大切なのには変わりない。我愛羅を孤独から救ってくれた上、風影になるという夢までも持たせ、我愛羅は見事実現させてみせた。それなのに私は彼を拒絶した、あんなにこれほどまでに好きなのに。

「今は休暇中。たまには羽を伸ばそうと思ってね、帰ってきたの」
「へえ、あの我愛羅がねえ」
「ん、なによその何かを含んだ云い方は」
「や、別に。俺だったら惚れてる女を近くに置いておきたいと思うからさ」
「………っ!」

二年で此処まで変わるかうずまきナルト。驚きで口をぱくぱくさせている私に金魚みてーと無邪気に笑うナルトに蹴りをお見舞いしたい気分だ。それに何で私と我愛羅の仲を知っているのかと云う疑問を頭で構築する前にナルトの口から聞けた。

「木の葉じゃ有名な話だぜー…ってねえちゃん知らなかったのか?」

知らない初耳だ、って有名な話って何処から洩れたのそんなこと。と詰め寄ると余程怖かったらしくナルトの顔は少し青ざめながらぼそりと云った。その人の名前は今後一生忘れることはないだろうという自信はある。逆に忘れたくても忘れられないと思うが。

(…カカシさん、何云いふらしてるんですか)

何故自分と我愛羅のことを云いふらしているのかは何となくわかった。こんなところでうじうじしている暇があるなら早く我愛羅のところへ帰れということだろう。頑固な私にナルトのようなことを後何人に云われるのだろうと思うと少しげんなりしたけれどそうでもしないと私は戻る決心が付かないことをカカシさんは知っていた。悔しいけれど本当のことだ。

それでも態々こんな噂を流すことでもなく、今にも舌打ちしそうな私にナルトは鬼みてえと云う。聞こえないと思ったのか本当に小さな声だったけれど私の耳はしかとその声を拾った。にこりと嫌味なく笑うと乾いた笑い声がナルトからする。

「じゃあさじゃあさ、いつまで木の葉にいるんだ?」
「……多分明日までよ、」
「そっか、じゃあ我愛羅も寂しくねえな!」

本当は明日なんて期限決めていなかった、けれど私の口は明日という言葉を外に吐き出した。明日という期間は実に短くて私の心の準備がまだなのに、と云ったことを後悔した。そしてナルトの我愛羅への思いは痛い程伝わって自分は我愛羅のことを置いて木の葉に来て、こんなところで何をしているんだろうと思うと急激に心に風穴が開いたような気持ちになる。

「じゃあ、私は帰って荷造りしないと」
「ああ。今度は我愛羅と来いよな、ねえちゃん」
「うん、」

ばいばいと手を振ると後ろでナルトが叫んだ。我愛羅と喧嘩してないで早く仲直りしろと、その言葉に目を見開くがナルトには見えないだろう。これだから困る、子供は成長が早くてたまに大人でも見抜けないことを簡単に見抜いてしまうのだから。