雀が可愛らしい声を響かせながら飛び交う音が聞え目が覚める。朝を迎えた今日と云う日を知らせる光がカーテンの間から洩れる。とは云ってもカーテンを買うだけの時間もなかった為ダンボールと云うお粗末極まりないものだったが。暢気に欠伸を一つ、落とせば窓の外からこつりこつりと何かが叩く音が聞える。二度寝しようと毛布に頭をかぶせれば今度は声がした。それも聞き間違いのないような、独特の話し方、声。寝ぼけているのだろうかと疑いにかかってみたが毛布を隔て、ダンボールとガラスを超えた向こう側から確かに声は聞えてきた。飛び上がりながら適当な服を引っ掴んでダンボールをどかした。

「おはよう〜」

いつものように間延びした喋り方をするあの人に思わずダンボールを退かすのを躊躇った。それを知りえているかのように向こうから窓を開く処を見ると一応常識と云うものはあったらしい、と関心してしまう。そんなに信用ならないのかと問われるなら思わず頷いてしまう程の疑心を抱いているのを知っているのかカカシさんはぽつりと酷いねえと呟いた、それはしかと私の耳にも届いた。

「いい天気だねえ、ほんと」
「…そう、ですけれど」

暫く誰にも会いたくなかった気持ちをこうもあっさりと打破してもらうと逆に気が抜けてどうでもよくなってしまう、と即席のダンボールテーブルに一つしかないマグカップにお茶を注ぎ、頬を緩めているカカシさんの前に出した。いい部屋だね、とお茶を啜る音を背景に云ったカカシさんを相変わらず脱力気味に返事を返す。気持ちがぺたんと地面すれすれでどうにもならない辺りまで落ちてしまっているという中でカカシの言葉は厭味のようにしか聞えずはあ、としか云えなかった。

「そんなに沈んじゃって、いやーね。こんなに良い天気なのに」
「カカシさんが何で此処に居るのか私は不思議で仕方ないんですけれど、」
「丁度任務で寄っただけよ?」

と紺色の布に皺が寄る。嘘だ、と瞬時に思ったものの口にする事はせず、変わりに木の葉も随分暇なんですねと厭味を云う。カカシは然程気にもせずそうなんだよねと返事をお茶を啜る音と共同作業で行う。何を云っても笑顔が崩れない辺り五代目に無理を云って此処周辺の任務に付かせてもらったに違いないと眉を吊り上げるとカカシは手を大げさに上下に振りを宥める。

「大体、此処に引っ越してからまだ一日も経っていないのに何で分かったんです」

訝しげに睨み付ければ、カカシは大げさに頭を掻き元々ぼさりとした髪型を頭に乗せていた彼の髪の毛は更に好き勝手に飛んでいく。何がしたいのだろうと見ていたら急にああ、とかうん、だとか唸り始め仕舞いにはだから、ええと、とぼやき始めるカカシにはどうでも善くなり始め、カカシの髪の毛がこれ以上爆発するのを抑えた。

「引越ししたばかりなので酷く質素なものしか出せませんが、文句云わないで下さいね?」

最初に念を押して置けば何を出しても文句は云うまいと、言葉にすればカカシはあまり気にする様子もなく当たり前だと笑う。借りたばかりの部屋には冷蔵庫なんてものは存在しておらず数日間分、彼女が買っていたカップラーメンしか出せるものがなかった。お湯を沸かしそれをカカシの前に出せば(勿論テーブルもダンボールだ)文句を云う事も、機嫌を損なうような素振りもなく、はひっそりと安堵した。

「カカシさん」
「ん、なあに」
「此処、風影様に聞いたんじゃあないですか、?若しくはバキ上忍、って処ですよね」

住民票を管理しているのは風影か、それを補佐しているバキが把握しているのは当たり前だろう。よって彼女の居場所を云えるのは彼らくらいであって、予想は簡単についたのだがカカシの言葉の濁し方から云って前者の相手に聞いたと解ってしまう。彼にしては解りやすい意思表示だったとは困ったように笑えば潔く、肯定するマスクの男。けれど怖いものは何もなく、それはただの彼の小さな防御壁、そう思えばその微かに皺の寄るマスクは面白いものであった。

「まあ、なら気付いていたと思っていたけれど」
屈託の無い笑顔で(マスク越しだけれど)弓なりに細まる眼からして笑っているんだろう。隠すつもり等毛頭なかった癖にと顔を顰めれば、まあまあと諌める声がする。上忍と中忍の間には高い壁があるのだ。言葉を上忍が謝って発する事などなく、行動も慎重にするのだから元々彼は彼女に隠し事等するつもりはないのだ。

「大丈夫、風影様はちゃんと考えている筈だから」
「そう、だと…思いますか」

自身で搾り出した声は酷く心許無いものだった。
無意識に下げられた頭に温かみのある手が乗る。嗚呼もう、何で欲しいものをいつもこんなに容易くくれる人なんだろうと唇を噛み締める。部屋に残ったラーメンの匂いは胃を逆流させるのには十分だった。