朝眼が覚めると布団の中は妙に自分の体温らしからぬ他の温度が存在する事に睡魔は一瞬にして飛び散った。もしかして過ちを犯してしまったのではと思って手汗が滲む掌を探ってみるけれども過ちにしてはあまりにも小さい存在が身体を包み込んでいた。訳の分からないまま眼下には眩いばかりの金髪の少年が他ならぬ体温の正体だった。驚く暇もなくその金髪少年の腕が身体を締め付けた。引き剥がそうと躍起になってみるけれどもその腕は細くて短いながらもしっかりと身体に巻きついていて成人女性である自分の力を持ってしてもこの子供の腕は容易く解けなかった。視線を上に上げれば目覚ましを設定し忘れたと思われる時計の針が目覚まし短針を越えていた。六時過ぎだと時計は知らせており、前に向直れば窓を超えてカーテンから光が洩れている。少し視線を下ろせば金髪少年が気持ちよさそうに鼾をかいて寝ているのが眼に入った。

「うずまきナルト、十一歳だってばよ」
驚きから時計の針が一周した、身体は硬直したままの処やっと目が開いた少年はうずまきナルトと名乗った。寝癖が沢山ついている髪の毛は相変わらず暗めの部屋を輝かせていた。顔つきからしても想像通りの年齢に乾いた笑いしか出せないに少年は自身の頬を人差し指で掻いた。昨日は普通通りの生活をしていた筈だ、何処をどう間違えたらこうして少年を家に持ち帰る状況になるのだろうかと昨日の記憶の曖昧さしか持ち合わせていない自分を呪ってみた処でこの状況が善くなるわけでもない為、溜息を落とすだけに留めておいた。金髪少年は子供らしくくるりとしたまあるい瞳の中、青い小さな空をそこに秘めおり、その綺麗さと深さに飲まれて一瞬だけ息を吸うのを忘れてしまいそうになった。

「何処から来たの?」
「イルカせんせーにラーメン奢ってもらって、家で寝て、そうしたら此処に居たってば」
「イルカ、先生…?」

変わった名前の先生に対し疑問を口にすると即座にアカデミーの先生だってばよ、と元気よく返ってきた。そう、アカデミーの先生、と納得したような言葉を発してはみるものの、イルカ先生なんて変わった名前の先生なんて聞いた事がない。もしかして変わった学校の生徒なのかしらと頭を捻ってみるけれども思いつくのは水族館等でショーを催しているあの可愛らしいイルカしか思いつかなかった。芸を仕込まれたイルカは手を叩く事だって出来るのだ。この少年にしてもうずまきナルト、なんて容姿にしてもそうだけれども風変わりで日本人らしくない、というのに言語はちゃんとしているし話も出来ている。しかもこの子の話によると家で寝ている間に此処に居たというのだから、すっかり頭の中は渦を巻いてしまった。

金髪少年は渦巻き状態の私の思考回路を読んだのか否かは分からないのだけれども、にしし、と笑って大丈夫だってばと子供相手に励まされてしまった私はその言葉にだいぶ胸がじんとした。のもつかの間の喜びだったらしい。

「で、此処は何処だってばよ?」

きょとんと青い瞳を猫のように丸くさせ首を傾げた少年に分かってなかったのか、と頭を盛大に壁に打ち付けてしまいたくなる衝動を何とか押さえ、何処に居たのと引き攣る笑顔で聞けばこのは、と答えるものだから先ほどのイルカ先生のように頭の中には風によって飛翔するあの公園等の木の葉を連想した。

「俺が居た木の葉は忍びの里で、俺も忍者の卵なんだってば!」
「…し、しのび?」
「おう!」

昔は存在したというあの忍者、の事だろうか。にわかには信じがたい言葉をすらりと云う、何とか状況を落ち着かせようと自分自身に云い聞かせるように言葉を発する。

「つ、つまりうずまき…ナルト君は、その忍びの里、木の葉で暮らしていたって云う訳ね?」
「ねえちゃんは飲み込みが早くて助かるってば」

と、少し大きめに見える服を着たうずまきナルト君は指を頭の後ろで組んで笑う。
飲み込む処か今までの自分の持っていた記憶までも吐き出してしまいそうな勢いなんですけれどとは云えず、目覚まし時計のちくたくちくたくと針を動かす電子音だけが唯一冷静で、現実に戻してくれる。つまりこの金髪碧眼少年はうずまきナルトと云って、木の葉に生まれ育ちアカデミーと云う忍者育成学校に通っていてそこの担任の先生がイルカ先生で、こうなる前日はイルカ先生にラーメンを奢って貰い、家路に帰った彼はそのまま眠りについてそれから何があったのか分からないけれども私の家の、ベッドの中で一緒に寝ていたというそういう事らしい。

の方も昨日は仕事が休みで、買い物に行き家でごろりと寝転びながら本を読んでいた処までは覚えているのだけれどいつの間に眠っていたのか、布団の中に入った事さえも覚えていない。 ああ、駄目、頭が痛くなるとさっき少年の腕から抜け出せた時に温めた牛乳が入ったマグカップを手に口に運ぶ、温めてからだいぶ経っていた所為で生温い牛乳となってしまっていたけれども今はこれが丁度いい。目の前にちょこんと座った金髪少年、うずまきナルト君もつられてそれをこくこくと飲んだ。あ、何だか可愛いと思ってしまったら私の負けかもしれないとマグカップの淵を噛み付けばかちりといい音がした。

キスと蜂蜜と土曜日の午後

2010/09/16|×