「おはよう。朝だよ、ナルト」
「んん…まだ眠いってば」
「起きないと朝御飯はなしにするからね?」

布団の中に潜り込み始めた小さい身体に向かってそう云えば、起きる事を知ってから早二週間。状況は善く分からないけれども、小さい子供を一人何処かへと云うわけにも行かなく、結局は此処で住む事にさせた。暮らしてみればナルトは最初の時の大人しさは何処へやら暮らし始めた次の日には元気よく部屋を駆けずり回りご飯を催促する、まるで小型犬を飼い始めた心境だった。そんな心境は一週間を過ぎれば可愛い弟のような気持ちに変換させてくれ、今ではすっかりこの家にも慣れてくれたようだ。

眠そうに目を擦り少し大きいパジャマを引き摺りながら起きて来たナルトにおはようと口にすれば眠そうな目はぱちりと開き眩しくて目が眩んでしまうような笑顔でおはようと云う。彼が忍者と云うのはあながち間違いではないらしい、と云うのはこの部屋で住むようになってから三日と経たない内に見せてくれた普通の人間では出来ないような身のこなしに納得させてれてしまった。異世界と云うものを信じているわけでもないけれど、ああして見せられては納得せざるおえなかったにしてもどうやってこうなったのかは未だ謎なままだった。

「うげえ、俺ってば魚嫌い…」
「好き嫌いは赦さない、ほら、食べる」
「うええ…」

厭だ、厭だと云う口元に魚の解したものを持っていけば仕方なさそうに唇を開き、同時に目は潰れてしまいそうな程頑なに瞑りそれを口内に運んだ。うげえ、と云う声がガラスコップの中に消えていくのを笑いながら見ているとナルトは恨めしそうな、それでいて少し拗ねているようにも見える顔つきで見上げてきた。よし、善い子と胃の中に消えていった牛乳の入っていたコップに新しく足すとすぐさま笑顔になる。何て単純なんだろうと口元が緩むのをナルトに悟られまいと自身も目の前に用意した朝食を口に運んだ。この二週間で分かった事はナルトの食事はかなり偏りがある事と、誰かと共に暮らす事に慣れている子供の態度ではない事だった。前者は子供らしく野菜と魚が嫌いでラーメンが大好物と云う事で次の日には嫌いなものを並べてみたりした。後者は何を聞くでも分かり難いのだけれど照れと戸惑いが混じった顔をする事がある事からあまり大人との接し方が分からない子供の表情が多く、それがナルトを大人にさせているように見えた。

「じゃあなるべく早く返って来るから善い子にしててね」

玄関先で奥に居るナルトに向かって云えばパタパタと履いているスリッパを鳴らしながら見送りにやってくる彼を見るのがいつの間にか愉しみになっていた。

ねえちゃん、いってらっしゃい」
「いってきます」

少し前までは顔を真っ赤にさせて云ってくれたその言葉も普通に口からするりと出てくるようで少し残念な気持ちを覆うように嬉しさがやってきた。会社に行けば忙しさに目を回し、毎日毎日同じ事の繰り返しに日々が霞んで見えたそんな時に彼、ナルトが目の前に現れた。かえってお釣りを差し出されても足りないくらいに満たされている事に気が付く。しょりしょりとした肌触りの紙を何枚も目を通しながらそんな事を思う度、早く家に帰りたくなるのだった。

さん、どうですこれから飲みに行きません?」

振り向けば愛想の善いと評判の彼が笑顔を湛えつつ片手で車の鍵をちゃりんと鳴らして見せた。偶に基本的な挨拶をする他に交流がない相手からの誘いをどう断ればいいだろうかと頭では考えつつ、眉を少し下げ返事に戸惑いを見せると見当違いな答えが返って来て少しの余裕は心を苛立たせた。

「すみません、先約があるので失礼します」

扉の錠を開ける音を響かせて重たい扉を開いた先へ視線を投げると薄暗い部屋からきらりと輝かしい太陽だと形容したくなるような笑顔でナルトは駆け寄ってきた。ただいま、お帰りと言葉を交わし木々がぶつかり合うような音をさせた袋を手にナルトは奥へと戻っていき中身が野菜だと分かると思い切り顔に出た厭そうな顔に思わず笑う。

「野菜入りラーメンね、」
「えええ…!酷いってば!」
「文句を云うなら野菜炒めだけにするからね」
「あーあー!嬉しーな、野菜ラーメン…!」

眼が泣きそうだけれど、と突っ込みを入れたかったのをぐっと堪えて台所へ向かうと後ろからビニール袋を手にしたナルトがついてくる。それが可愛らしくて思わず口元が緩みがちになったままナルトの大嫌いな野菜を切り始めた。

少し霞んだ媚茶色のリボン

2010/09/16|×