例えば今此処で死んだとすればそれに嘆いてくれる人は家族を含めて両手の数で足りるだろうと実際に指を折り曲げて数えてみたら本当に両手で足りて少しだけ淋しくなった。あ、火影様も泣いてくれるかもしれないと一応折り曲げても両手プラス一の数。この世に生を受けてから二十年と三年、人とのふれあいで得た絆にしては少ないだろうと折り曲げた指を地面に放り投げた。思い出せる限りの絆の相手は家族で片手、友人一人とそこそこ仲の善い仕事仲間と火影様。身を粉にして働いてきた割には酷い試合結果だと身体が土にめり込む音がした。 は今死にかけていた。未だ死んではいないがこのまま誰も通らなかったら死んでいくであろうと予測は簡単に出来る程に視界はぼやけていて息継ぎが水の中に居るかのように苦しいのだから忍でなくとも誰でも判る事だ。 人間ならば、否、生を受けたものならば脳内に植えつけられている死への恐怖心と本能、も例外ではなく地に流れていく血液の感覚に頭痛がした。まだ何もしたい事をしていない、アカデミーに入ってから今まで遊びと云う遊びをせずにひたすら身体に忍術を覚えさせて生きてきた。だから勿論の事恋人と云う存在もなく、死に掛けている今になってからどうせならば恋人くらい作っておけば善かったと多いに後悔していた。遊びでも何でも善い、居たならばこの瞬間も少しは楽なものになれたような気がして虚しさが一層深まる。例えば遊び人と噂されているはたけカカシとか、忍としても遊びとしてもやり手である彼とだったら苦しまずに遊べたかもしれない。次に特別上忍の月光ハヤテさん、真面目で遊びとは無縁だけれども安心感が得られそうだと想った処で恋人の存在を思い出し直ぐに打ち消し線をつけた処で一気に血液が体内から逃げていくのを寒さで感じた。
嗚呼もう死んでしまうのかと木々の間から微かに見える空を見た後眼を閉じた。
「生きようとは思わないのか」 静かに、甲高い音の中から聞えてきた声に身体中の中に眠り潜んでいる生が熱を上げた。生きようとは思わないのか、生きたいに決まっている。簡単な任務で小さな失敗を侵し敵にやられ死にかけているなんて全くもって最低最悪な事だ。霞む視界で今現在自身が持つ力をかけて遠く見える男の顔に対して睨みつければ何も面白い事等ないと云うのにつけたお面の向こう側で笑い声が響く。 「まだ生きているんじゃあないか。善い眼をしている」 暗部の男はそう云ってしゃがみこんだのか遠くにあった顔が一瞬の間に近くなった。霞む視界で見えるお面の柄もあまり判別出来ず善く見ようと眼を細めれば男の掌らしきものが視界を奪った。(助けてあげる)と聞えた声は至極愉しそうであり、それが自身の癪に障った事など知る由もないだろう。消えかかっている意識の中でそういえば上忍であるヤマトの事を思い出して、一番恋人として有り得ない人だと何故か思いながら思考は停止した。
死んだふりをした死体
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「俺と同じね、」 酷く痛む頭を横に傾ければカーテンが引いた向こう側から手が伸びてきてそれが引かれるとそこから現れたのははたけカカシだった。今は到底似合わないであろう下忍の先生なんていうものをやっているという忍だったと他人行事のように云うのはなんだか偲びないのだが、殆ど接点はないのだから妥当だと思う。突然の登場に眠気は吹っ飛び驚きで眼を剥けば相手は愉しい番組を見ているかのような表情になった。かと思えばカーテンの仕切りで気付かなかったお見舞い人が顔を出した。驚きが二倍、否何倍でも膨らんでいきそうな程だと思いながらカーテンを閉めようと手を伸ばせば数センチ足りずベッドから転落してしまい、利き手に刺さっていた点滴の針が引っ張られ言葉に云い露わせられない程痛かった。死にかけている時は意識を辛うじて保っていた状態だったからまた違う。 「何をやっているんだい」 頭上で呆れた物云いの声が槍のように鋭く刺し込まれて、床に顔がのめり込んでいるのを云い事に私は些か悪態を付いたが多分、否絶対聞えているだろう。顔を上げたくないと病院服では薄くて床の温度は冷たすぎると身体を震わせれば、息継ぎついでに吐いた溜息をした男に身体を抱きかかえられ布団の中に戻されたのだと脳が理解するのにはだいぶ掛かった。理解した後も布団の中で固まって動かなくなった身体を面白そうにするはたけカカシとそれを見て先程から腕を組んだままの男、ヤマトが此方を見ていた。カーテンを再度引こうと身体を起き上がらせる前に気が付いた目聡い男、ヤマトはそれを阻止するべくはたけカカシと自身の間に立ち防ぎ、此方に背を向けて締めますよ、と云い抗議する声を遮るようにレールを滑る器具の音が耳に入り男の身体が退いた頃にはもうはたけカカシの姿は見えなくなっていた。
「これでもう莫迦な事はしないで済むだろう」
ヤマトはにこりともせずああ、とだけ云ってカーテンの向こう側へ消えた。 それよりもずっと位が上に来ていたのは先程任務だと云って病室を出て行った男ヤマトの事だった。何ヶ月ぶりかに聞いた声、見た姿、呆れた物云い、それなのに優しい腕に身体中の血液が顔に集まるのを感じる。久々に感じた想いだと白い天井を顔半分隠した布団の隙間から見上げる。忍術習得だけを、上へ上へと高みを目指していた中でも一度だけ初恋と云うものをした。一般の初恋がどんなものかは分からないが一生分の恋心を彼に注いだと云っても過言ではないくらいのものを彼に抱いた。けれどもそれがある中で上手く任務をこなして行ける訳もなく、丁度彼と組んでいた時に失態を侵してしまいそれからは彼の事を極力近づかなくなってしまった。自身の愚かさ故の行動に彼が傷ついてしまう事を想定出来なかったと後々悔やんだ処で、避けられている相手に好き好んで話しかけようとする酔狂な者ではなく謝る機会も逃して今に至っていた。溜息を零せばカーテンの向こう側に居るであろう里一番の稼ぎ頭である忍がまた顔を出しかねないと布団の中でぐっと堪えた。 「ヤマトが帰っちゃって暇だから俺と話さない?」 隣の男は物音、溜息関係なくカーテンを簡単に開け放ち隣との仕切られるものは全く無くなってしまった。何を考えているのか分からない顔(はたけカカシに対してそう思うのならばヤマトはそれを行くのだが)で笑い病人の割には元気善く見舞い客の為に置かれた椅子を引き摺りながらベッドの端に寄せ腰掛けた。何を話せばいいのか分からず、取りあえず身体を起こす事から始める、はたけカカシはそれを断ったが幾ら病人と云えど上忍相手に自身だけが身体を布団に沈めているわけにはいかないのだと枕を腰に置き、今度は点滴に細心の注意を払って座った。
「…ちゃんだっけ、?」 善く知っているなあ、と云うのが本音だがきっと名札かヤマト上忍にでも聞いたのだろうと解釈する。どうやら彼は上忍と呼ばれるのが慣れて居ないらしく何を考えているのか分からない笑顔が少しだけ朱くなった。意外だと目を丸くする私に上忍は誤魔化すように頭を掻いた。世間で広まっている噂はどうやら殆どが尾鰭がついた嘘っぱちだったらしい。女たらしのすけこましだとか、泣かせた女性の数は星の数だとか、手が早いとか。どちらかと云えば一途な人なのかもしれないと頭の片隅で思ったが噂と云うものの殆どが女性関連だと云う事に気付くのはもう少し後の事。
昨日散った花は天国に届きましたか
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あの偶然的な再会からヤマト上忍と上忍待機所で出会う事が稀だったのが頻繁に鉢合わせする事となる。今まで自分が避けていたように相手も避けられていたのだろうかと思ってみたけれど、真意は分かりはしない。部屋の中で共になるのは彼一人だけではないから、出会ったとしても何か話をする事も(挨拶は別として)なく、どういうわけか任務もあれから一度だって重なった事がない。私は私で特別上忍としての仲間内で話している事が多く、彼も彼で大体がはたけ…否カカシ上忍かアスマ上忍に限らず大体の人と満遍なく話をしている。(あ、でもカカシ上忍には一目置いているようで仲が善いらしい)無意識に視線をやってしまうのが憎らしくて彼に向かないように目の前の仲間に意識を戻そうとするのだけれど部屋に入ってきた途端此処はいつもの待機所ではなく特別なものに変わってしまうのだからまだ自分の気持ちは変わっていないのだと自覚した。
それでも何か行動を起こそうとも彼の隣が欲しいとも思わないのは不思議な事だ。
「調子善くないの?大丈夫?」 無理に頬の筋肉を使おうとするとどうやら私は端から見ても不自然と分かるらしい。向かいに座る特別上忍であるくのいちに訝しがられ、曖昧な笑みに留めた。その顔が気が付いたように上忍達の方、つまりはヤマト上忍の方へ行くのを見届け内心はとても焦っていたけれど、見た目は普段通りを装っていた。彼女が彼の名前を口に出すのも時間の問題だ、と一ミリでも口の動きを見逃さないよう眉を寄せた。
「最近ヤ…」 そのくのいちの腕を取って出入り口へと誘うのだが、それが彼女の決め手となってしまった事に私は不覚にも気付きはしなかった。任務というものは先日失敗に終わった尻拭いのようなもので火影様がもう一度機会を与えてくれるとは全く思っていなかったものだから多大な驚きと、次任務をおじゃんにしてしまったならば私の首が飛ぶだろうという覚悟の上で了承すれば何故か同じ特別上忍仲間のくのいちがついてきた。何故です、という野暮な事は聞きはしない。私が死んでしまった時代わりに戻ってくる事が出来る、もし私がこの間のように死にかけても運善く助かる見込み等、無いのだ。この間は運が善かった。奇跡に近い事が私の身に起こったと云っても過言ではない、今の生命の色付きに私は些か安堵した。それがまた危険な場所へと自ら飛び込もうとしているのだから救助した面の男に微かな罪悪感が沸く。けれども彼も知っているだろう、忍というものはそういうものなのだ、時には命を落としても遣り遂げたい事がある事を。 空が曇り始め、光が地に降り注ぐのを遮り始めたと顔を顰めながらも足を木々へと移動させつついた。今回の任務は遂行する事が出来前を行くくのいちも時々背後を振り返っては善かったと顔を綻ばせた。木の葉につくまでは油断は禁物なのだがそれでも喜んでくれている彼女を見るのは気分が善かった。
「善くやった。御苦労」 ありがとうございます、と火影様に一礼し退室した後、待機所へ向かう事もなくそのまま窓から見える木へと乗り移った。何か特別にしたい事があった訳ではなく、只なんとなく気分転換がしたいと思った為にした行動だった。高い処が嫌いなわけではないが実は好きじゃあない、そんなささやかな矛盾を抱えながら太い幹に腰を下ろし足を宙に投げ出した。ぶらりぶらりと揺れる自身の足は改めて見ると女性らしさと云うものがなく、筋肉が付けられるまでつけたといったような形で考えるんじゃあなかったと後悔した。 偶に一般人の女性に憧れてしまう事がある、何だかんだ云っても自分は女なのだから綺麗になりたいと云う願望は忍だとしても思う事はある。そう、喩えるならば今木の下に立って誰かを待っている女の人のようなひらりと風に舞うスカートが似合う、そんな身体が善い。(何て、忍でやっていく女が思う事じゃあないよね)自嘲する笑いを唇に含ませた途端、木陰で隠れていた女性の待ち人が現れ、忍木からも落ちると云うことわざを使いたくなるくらい危うく幹から落ちそうになった。それと云うのも女性の待ち人がまさか恋人が居るとは思っていなかった人、ヤマトだったからだ。一瞬で砕けた恋心と身体中で忙しなく廻り出す血液が自身の動揺を如実に現していて、木の上で逢瀬を眺めているなんて彼が知ったら何て思うのだろうと(幾ら不可抗力であったとしても)また緊張で手に汗をかく。こんな気持ち、まるでSランクの任務を遂行している時の面持ちだ。 彼に気付かれないよう木の死角に入る為身体をずらし、木の葉一枚落とさぬように配慮するがそんな上の緊張を知らない下の二人は心の底から愉しそうに会話をしていた。死角に入れた為そこで身を潜めていると男女の声は遠ざかっていき、詰まっていた息がやっとの事吸えるようになったのにも関わらず心臓は彼等が去っていったその後十分近くは鳴りっ放しだった。
交差することはないのだが
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