03

白いレースがひらひらと風に舞う姿は男でなくとも一種のときめきを感じる。
忍である私が着たら見っとも無い姿になる為、持ってもいないし着た事もない。それでも憧れはするのだ、一応女という生き物ですから。と女と云う単語の所為で昨日云われた否定語を思い出し、折角の綺麗なワンピースも一気に色褪せて見えた。どうせあの奈良シカマルが云う女とはさっき目の前を通り過ぎた白いレースが似合って、手足が細く、肌も白い子を指すのだろう。月並みの言葉でしか表せられないのは悲しいことだが、きっとそうだ。幾ら女に興味の無さそうな奈良シカマルと云えどああいう子を目の当たりにすれば興味は持つだろうし、もしかしたら一目惚れとかしてしまうのかもしれない。考えただけで笑ってしまう話だけれども。

ショーケースに飾られたワンピース、夏と云う季節に合った白い色が街中に溢れ返っている。その中でぽつりぽつりと暑そうな黒色と濃い緑色の忍服が見え隠れする。そこから目線を外せば一気にやってくる脱力感と願望。そして自分が持っていないものへの憧憬。 悲しい話、私には今まで一度も恋人と云うものが出来た事がない。過去に好きな人は居た、けれどもそこからどうしても告白から付き合うまで行かない内に私は飽きてしまう。逆のパターンではどうしても興味を持てなくてその過程まで辿りつかない。興味が無いと云ったら嘘になるけれども、欲しいとも思わないのが現状だ。これでは奈良シカマルの云っていた通り女を溝に捨てているようなものではないか、という思いに至り一瞬で気分が降下していき最終的には悲しさというよりも怒りの方へと向かっていく女らしくない自身の心。それも奈良シカマルに向かっての負の感情ばかりが積まれていくのだ。

「それは、つまり一種の愛情表現じゃない」
「はあ、?」

今まで起こった(特に昨日)の事を洗いざらい同期の友人にぶちまけると返って来た言葉は愛情表現と来た、それも歪んだものだと。その一言で相談する相手を間違えたかと後悔したが唯一相談出来るのは目の前で頬杖を付いて愛の付く言葉を云った彼女だけだった事を思い出し反論しそうになる言葉達を喉元に押し留めた。が、押さえきれない反発ひと漏れで彼女は私の心の内を悟って顔を歪めた。(流石何年も友人をやっているだけある)

「だってさ、そうじゃない。他の男と話している最中に書類が云々云って間に入るなんて、それも一度も無かったことはないんでしょ。彼の気持ちは明らかじゃない」

「も、もし仮にそうだとしても意中の相手に女を捨ててるなんて云わないでしょうが」
「あんた、そういう方に意識を持っていかれるタイプでしょ。奴を誰だと思っているのよ」

アイキュー二百の超が付く天才よ、と破顔させた友人の頬に拳一発ぶつけて笑えなくさせてやろうか等と不吉な事を頭に浮かべながら過去を振り返る。確かに異性と話している時に限って大量の書類を抱えた奈良シカマルが通り過ぎ様に持てと云い全て持たせ、話を遮るなんてざらにある。あまりにも続き様に起きるものだからその男性はそれから一切声をかけてくれなくなったし、残業は多い。余分な事を(乙女心を理解していないような事を)平然と云って退ける。恋人と云う存在も、恋も出来ないのも全て極悪非道な人間である奈良シカマルの所為だとしか考えられない。思わず団子の竹串を粉砕しかけて止められる。危なかった、と胸を撫で下ろす前でもう手遅れだと云う顔をしないで欲しい。本当。

「恋なら出来るじゃない」
「何処に、誰が」

友人は団子の串を噛み切る事はしないで丁寧にお皿に置いた後、にやりと笑う。

「奈良シカマルが居るじゃない。いつも隣でぶつぶつ云いながら、もうべったりと」
「ありえない!」

思った以上に大きな声で出た言葉に友人は耳が痛そうに顔を顰める。友人の云った通り奈良シカマルとは二年間べったりと云っても過言ではない程に一緒に居る。朝から晩まで。すっかり見飽きてしまった故意以外では存在しない耳のピアス穴も、出会い当初は粋がっているなあと眼を細めたものだがそれも今では善くあの歳で開けたなあ、ぐらいにか思わなくなっていた。略毎日顔を合わせて言葉を最低限交わし、一日の殆どと共にしているのに相方から片思いの相手に発展しないのは奈良シカマルの数知れない程の不躾な言葉が原因。もしそれがなかったら、と聞かれたら無くは無いと云う答えがふっと浮かんで友人と同じように顔を顰める羽目になった。

「もう、変な事を云うから…」
「奈良シカマルが恋人だったら、を想像しちゃった…図星?」

手にかけていた湯呑みを落としかけて、否定しようとした途端友人の背後には噂をすればなんとやら、の言葉通り奈良シカマルが通りに姿を見せた。嗚呼気付かないで、と顔を逸らす間もなく此方に気付いた目聡いというか、気配聡いというか電気が流れたようにぱちり、視線が合った。少し驚きに見開いた眼を隠すかのように直ぐ仏頂面になった奈良シカマルを追ってやってきた少しふくよかな少年がいつもと違う友人に問いかけながら頭に疑問符を浮かべていた。