振られたの、とおいおい泣いている先輩の相手をしつつ僕は小さく溜息を吐いた。久しぶりに飲みに行こうかと云われて喜んだのも束の間告白した相手の事をかれこれ一時間程云う先輩の声が酒の煽りを受け覚束なくなり始めていた。僕は最終的に先輩を家まで送る事になるだろうことを予想してまだグラスには一杯目のお酒が半分も残っていた。いつも三杯目くらいで酔う下戸な僕にはこれくらいが丁度いいのだがたまには沢山浴びる程呑みたい時もあるのだ、それが今なのだが。先輩がこんな状態ではそんな事を云うだけ無駄だと云うものだ。

さん、もうそれくらいにしたらどうですか」
「煩い、まだ呑むの!そうしなきゃやってらんない」

やっていられないのはこっちですよ、と半分のお酒を一気に飲み干した。頭がくらりときたけれど、大丈夫だ。先輩はまだ相手の文句を云い始めた。振られた原因はどうやら女らしさにかけるということらしい、確かに可愛げというものが全くないし、此処は男に持たせてもいいだろうと云うところでもきっちりと会計を半分にするし、普段も楽な格好でスカートなんてもっての他だと云うくらいだ。まあ、先輩にも非はありますよね。好きな相手の好みになれば顔はそこそこ美人なんですからいけたかもしれないのにと相手の肩を持つようなことを云ってしまい拳が飛んできたが酔った先輩のそれは全く痛くなかった。ああ、後暴力的なところも足して置く。

「てんぞー、も…やっぱ男よね!私は自分自身を好きになってくれる人がいいのー」
「誰もさんが嫌いだなんて云ってませんよ」
「でも女らしい方がいいんでしょー?」

僕が返事する前に先輩はテーブルに向かって勢い良く泣き始めた、先程とは比にならないくらいの泣き方に慌てる僕。まるで晴れていたわけではないから曇り空からいきなり大雨が降ってきたような。誰も云ってませんって、とどうしても云えずに隣で泣いている先輩の背中を出来る限り優しくさすることしか出来なかった自分の不甲斐無さに気持ちが沈んだ。こんな時きな臭いもう一人の先輩が居たなら上手く対応できるのだろうと思うと立ち回り出来ない自分自身が浮き彫りになって余計気分は沈んだ。カカシ先輩が居たらいたで会計を全て押し付けるから厭なんだけれども。

空になったグラスを意味もなく傾けると氷がからんと気持ちの良い音を出して氷同士がぶつかった。さんは隣で泣いていたかと思うといつの間にやら泣き声ではなく空気が口から行き来する音だけが聞こえた。顔を覗いてみると顔を半分テーブルに押し付けたまま彼女は眠りについていた、まるで子供のようだと口元を緩めたら拳が飛んできそうだったので止めた。

「僕なら、さんを幸せにする自身はあるんですけれどね」

好きじゃなければこうやって愚痴を永遠と聞けないだろうし、泣いているさんを傍目に抱きしめたいとだって思わないだろう。大体飲みに行く事だって彼女だからあんなにも浮き足立ったのだから。まあ当の本人は気付いていないだろうけれども。分かり難い愛情表現に早く彼女が気付いてくれるように両腕で彼女の腕を軽く押さえて額に唇を落とした。

れいん、れいん

2010/04/03