ナルトは空を飛んでいた。と云うのは一般人から見た彼の姿であって木の葉の忍から見れば空を飛んでいた、という表現は可笑しいのだけれどから見たナルトは鳥のように空を飛んでいるように見えた。いつだったか遠いようで近いような昔に一般人であるがうずまきナルトと会ったのは忍者育成所アカデミーの近くで一人遊んでいた事から始まる。その頃は活発な性格だったは一人遊びを編み出しては愉しそうに動き回り、木の上で眠ったりして一日を過ごしていた。今思えば眉を顰め思い出したくない記憶だったりするのだけれどああしてなければ今こうやって忍が飛んでいっても里の為に頑張ってくれているのだと他人めいた感情しか湧かなかっただろう。ナルトはの姿を見つけ次第屋根から落ちてきた。(と云うのもから見た感覚でだ)地面につくなりナルトは屈託の無い笑みを浮かべて一週間ぶりだってばよ、と云った。上から桜色の髪の女の人、サクラちゃんとナルトが呼んでいた人がナルトに向かって怒鳴る。ナルトは然程悪びれた様子もなく後でとサクラちゃん、と同じくらいの声で云い返した。

「直ぐに行くってヤマト隊長に伝えておいてくれってば!」
「もう、早く来なさいよ!」

空の向こう側へ消えていく桜色の髪の毛の持ち主に返事を返しながらナルトはへ向いた。

「凄い、流石忍者ね!」
「これくらい忍者なら誰でも出来るってば」
「そうなんだけれど、なんかナルト君がやっていると一段と凄く感じるの」

眼をきらりと宝石のように輝かせてナルトを見る彼女にナルトは満更でもない様子ではにかむ。昔から何一つ変わる事のない笑顔には更に嬉しそうに笑った。任務なのだろう、ナルトの背には必要最低限の物しか入らない程の小ぶりのリュックサックが背負われていた。目線を一瞬遣っただけでナルトは直ぐにの云わんとしている事に気が付き、肯定した。聞かれてもいないのに中身まで丁寧に話してくれるのはナルトの性分から来るものなのだろうと、は愉しそうに耳を傾けた。

「この丸薬もご飯なの?」
「おう、けど慣れないと苦くて噛めないんだ」
「へえ、じゃあ今は平気なんだ」
「まあな!」

掌に乗せた丸く黒い漢方薬をに手を上げるように催促する、それに従えば肉刺が所々出来ている男らしい指から伝ってまあるいそれは細い彼女の掌にころりころりと何個か零れ落ちる。ナルトの行動に疑問符を浮かべたにもう時間だから、ヤマト隊長に叱られると云って指先で漢方が乗った掌を撫でた。一回蹴れば彼は空へと戻っていく、一般人である彼女には出来ない芸当、彼女は彼が屋根の向こう側へ消えていくまで空を見上げていた。

掌に残された自分には縁のない漢方薬を見つめ、最後にナルトが撫でた掌、逞しい指先を思い出しどきりとした。残された丸薬を口に含みたくなり、唾液と混ぜれば彼の云った通り一瞬にして苦味が舌にへばり付き吐き出しそうだった。口元を覆えば、通りすがりのおばさんは彼女の姿を訝しげに見るがそのまま通り過ぎていく、噛める噛めない話以前の問題だった。吐き出すまいと必死になり飲み込んだ後は視界が涙で滲んでいた。苦くて噛めずにいた彼の気持ちを少しでも知ろうとしたのか、口内に残る終わりのない苦味に顔を歪ませた。

飛べない鳥が哀しげに啼く

2010/10/01