警護についた彼はヤマトと名乗りながら猫の面を外し無愛想さをより一層強くした。外さない方がまだ愛想があったのにと眼を糸のようにすればさして興味もないと云った顔で面をつけなおした。もとより馴れ合うつもりなどないと云われた気がして床すれすれの華やかなドレスをヒールで蹴った。部屋で二人きりというのは酷く息苦しい、相手が異性ならば甘い雰囲気になって危ない恋に落ちるだなんて甘い夢はみやしないけれどもせめて愛想がある人が善かったと椅子に腰掛けるでもなく壁に背を預けているヤマトと云う忍にちらりと視線を向けた。

猫の面をつけたヤマトは何処を見ているのか分からない。もしかしたら眼を閉じているのかもしれないけれども。膝に置いた本の中身の理解なんてとっくに放棄していて興味は丸まるヤマトに注がれていた。ちらちらと視線をぶつければたまに居心地悪そうに身体が動く。

「…あまり見ないでほしい」

ぼそりと云われた言葉なのにしかと耳に入り溶けていく。何だか可笑しくなり笑いそうになるのだが何処を見ているのか分からなかった視線が注がれている、ヤマトが態とらしくお面付きの顔を持ち上げたからだ。何とか堪えようと、顔を伏せれば前に流れてくる髪の毛が欝陶しかった。大体こうも見張られていては寝る事も憚られるではないかと顔をしかめ、あの狸爺と悪態を付けば猫の面は可笑しそうにゆらりと揺れた。

「何が可笑しいのよ」
「お嬢様でも悩みはあるんだなと思っただけ」

莫迦にしてる、と眉を思い切り吊り上げたそれに屈する事無くくつくつと笑う猫面に腹が立って手短にある本を投げようとした手は何故か靴に伸びガラスで出来た靴は宙に舞い奴に当たる事無く手中に収められていた。それが悔しくて睨み付けてみても猫面は肩を揺らすだけだった。

ガラスの靴を投げ捨てる

2010/08/20|title by honey bunch|