「煩いよ、莫迦」

一つ後ろの席で要が隣の席の十馬に対して云った言葉は一つ前の席に座る私の耳にもしかと届いた。十馬は何かしら要にちょっかいを出して遊んでいる、そんなことばかりしているからテストでも悪い点になるのだ。まあ、そうじゃなくても居眠りばかりしているから当たり前なのだけれど。要が十馬を再度注意を促しているのを聞きながら私は要に拍手を送りたい気持ちになった。けれど今は怖い我クラス担任の安部先生の授業だと黒板の方に集中するように励んだ。授業に耳を傾けて目線を黒板へと持って行くと運悪く安部先生と思い切り目が合った。直ぐに交わりは解けたのだけれど、不意に感じた安部先生であってそうでない目つきに私は酷く心を奪われた。

「神楽坂、兵頭」

目の前に影が出来、目線を上にあげるとそこには瞬間移動でもしたのかと錯覚してしまう。安倍先生が私の机の前に立っていたことで驚き、変な声を上げてクラスが要達ではなく私に注目してしまったことに頬を朱くしたら安部先生は予想していたのか冷静にクラスを宥めつつ要達への注意も忘れなかった。

「煩いぞ、授業中だ」
「…す、すみません」

安部先生は口をきゅっと結んだまま前へと戻っていった。また再開する授業。 何故かそれから先の授業は上手く私の脳に入ることはなく、只先生の低くて無遠慮な声がずっと響いていた。授業が終わり要がどうしたの大丈夫と尋ねてくるまで私はずっと安倍先生が居なくなった教室の出入り口扉を見ていた。大丈夫だよ、と要に云うとお昼ご飯のお弁当を手に屋上へと走った。

あなたのやさしさは似ている

2010.03.22