「げ、」

「あ、」

略同時に発された声は言葉、声の高さを無視すれば共通してそこから嫌悪があった。同じ職についていれば会う事も稀だと両者共高を括っていたらしいがその考えが甘い事を直ぐに知る事となる。学生時代から仲がすこぶる悪く、何かと喧嘩ばかりしていた。購買で、教室で、屋上で、兎に角二人が会える場所があれば何処でも噛み付きあうのが常だった。仲の悪さはお互いの性格の不一致から来るものらしくそればかりは中々変わる事がない。それは卒業した後も二人の関係は今のように変わる事なく険悪なままだ。

お互い厭な顔を隠す事無く顔を合わせ、同じように眉を寄せた。
「今度は会う事なんてないと思って嬉しかったと云うのにまたあんたと会うなんて、幾ら何でも出来すぎよ」

「あ?まさかこの俺がお前さん如き、会う為に照らし合わせているとでも?は、これかだから被害妄想の激しい女は厭なんだ」

「な、なんですって!こっちだってね、あんたみたいなどうしようもない男大嫌いよ」
「奇遇だな、同じ意見だ」

忠義は昔とは全く変わらない皮肉る笑顔を向け、はそんな忠義の顔面を殴りたい衝動をどうにか抑えている状態だった。あんた、よくそれであの子に慕われるようになったわねと負けじと皮肉れば相手のそれが酷くなる事を知りえた彼女は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべたがその束の間、彼はそんな彼女を差し置いて背を向けていた。何だ、その態度は、といつもの彼らしくない態度には反感を抱く。三十にもなって子供じみた喧嘩を続けているのは何でだろうと別れてから暫くすると感じる疑問。それを何処かで投げかけようと都合を伺っているのだが顔を合わしてしまえば最後云い合いに発展してしまうのだ。

こんな事では駄目だと何度も思ったか知れない、と背を向けた相手には見えない情けない顔を作った。あ、雨だ。どちらとも略同時に空を見上げ呟いた言葉は殆ど同じだった。すれば、驚き、お互いに顔を見合わせ今までの幼稚な喧嘩が急に情けなくなりいつもの相手を嘲笑するような笑い方ではなく、今まで相手に向かって普通の笑顔をした事がなかったものだから頬が変な引き攣り方をする(それもお互い)雨はつんとした匂いを地面に吸い込ませて少しずつ量を増やしていく。

「やだ、酷くなってきてる」
「この様子じゃあ直ぐには止まんだろう」

道路でこのまま立ち往生している訳にも行かず戸惑っていると忠義が一時休戦だと云い抵抗もなくの手首を掴みながら走るぞと答えを聞かずに走り出した。手首を掴まれているはされるがままになり同じように走り出す。すると雨は狙ったかのように容赦なく降り出し始め、行き交う人々は全身濡れ鼠だ。雨は酷さを増す一方で体温もしかと奪っていく、走りながらくしゃみをすれば前から舌打ちが聞え、思わず云い返してしまいそうになるけれど、掴まれた手首がそれと同時に強く握り締められて悪態をつき損ねた。

雨はぼくらを少し素直にする

2010.04.15