ぐう、とお腹が鳴った。咄嗟にお腹をおさえて顔を朱く染めると兄様はそんな私を見て口元をおさえた。幾ら口元を隠したって笑いを堪えているのが兄様のお腹の動きと指の間から見える口元の緩みで分かった。私は口を大きく開けていっぱいの空気を吸って頬にためた。それを見るとまた兄様の笑いのツボを見事に押してしまった私は言葉を返すことを止めてそっぽを向く。顔は朱いままだ。

「非道い、兄様」
「…くっくっ、…さっき食べたばかりなのにもう、お腹が空いたのか?」
「ち、違うの!別に何かが食べたいとかそういうんじゃなくて…!」

思わず兄様の兄様に反論する時のように兄様の言葉に反応してしまった私はその先の言葉を紡げずに口ごもった。それを兄様は不思議そうに見つめてくるものだから頬は余分に朱みを増す。兄様には、あまり云い訳をしない。別に決めていたわけじゃないけれど自然とそうなっていて、だからと云って兄様の兄様が嫌いなわけじゃない。そんな私に兄様は優しく、頭を二、三度撫でるとタイミングを計ったかのようにそろそろ仕事の時間だから、と云って家を出て行ってしまう。その後姿はいつ見ても飽きなくて兄様の兄様に外にずっと立っていたことを怒られたけれど気にしなかった。それくらい私は兄様が大好きだったのだ。

「兄様!」

二階から下に居る兄様に聞こえるよう声を出すと忠義兄様は私の姿をあの素敵な瞳で見てきて、手を振った私に振り返してくれる。今日、帰ってくるということを聞いていた私は一番のお気に入りの服を着て、二階にある自室から兄様の姿を一番早く見れるようにと数時間前から用意していたりして。だいぶ落ち着きを持てるようになったけれど、顔に張り付く朱みは中々直るものではなかった。久しぶりに帰ってきた兄様はだいぶ変わっていて何て云えばいいだろう、柔らかくなった、そんな感じだ。それでも忠義兄様は前と変わらず素敵だった。

「お久しぶりです、忠義兄様」
「ああ、只今、

くしゃりと頭を撫でられて、子供じゃありません、と反論しかけて止めた。そこでふと、私は自身の違和感を感じる、数ヶ月前は嬉しかった筈なのに私の胸は何故かその行動に何も反応を示さなかったそれに少し戸惑った。何かが違う。兄様であって兄様ではない感覚に眉を寄せると兄様は微笑んで美人が台無しだぞ、と云った。違和感はそれ以前から始まっていた。兄様は妹に対しても可愛い、とか美人とか、滅多に口にしない人の筈だ。それがこうもすんなりと口から出せることが、変だと思った。兄様はそんな私の違和感など気にも留めないで親父に会いに来たんだ、とそれだけ云って玄関へ歩いて行ってしまう。そしてそれがきっかけのように兄様がもう私の、私だけの兄様でなくなったことを知る。

囁くように泣いているの、

2010.01.17