窓の外の世界は薄暗く、湿度を高くする原因である雨もざあざあと降っていて部屋も電気を消したら外のようなじめりとした空気になるのだろうと思うと気分は余計に憂鬱になった。窓の外から目を逸らすと部屋は自分以外誰も居ず憂いは密度を増していくだけだと気づくと溜息がどうにも止まらない。幸せが逃げていってしまいますよと震える空気達が云っているような気もして止めようと思っても中々止めることが出来なかった。コップにお湯を入れて、少し苦めになってしまった紅茶は雨の日に身体も心も温まるそんな気がしてならない、けれど今の私にはそれも気分を変えることができずにいてどうしてだろうと頭を傾げてみたところで解りたくなかった。

「忠義、さん」

同じ退魔師の家系の元で生まれ、また同じように退魔師になるよう訓練を受けた。そんな彼を知らず知らずの内に好きになるのなんてそう難しくはなかった。彼も私の気持ちに気付いて愛してくれるようになって、幸せだった筈なのにいつしか少しずつずれが生じるようになった時にはお互い滅多に会わない関係にまで落ち込んだ。理由は至って簡単なものだった、私が彼を愛するようになって、恋人になって、妻になって退魔師というものを辞めた私は彼にだけ必要とされる存在となった。十日前から仕事で家に居ないだけ、ただそれだけ。それだけなのに私は不安で仕方なくなるときがある、湿度が高くなるこの日、こういう日には彼が傍にいないだけで壊れてしまいそうになる。

「ねえ、いつになったら彼は帰ってくると思う?」

窓の外をもう一度見ても雨は止むことなく建物に打ち付けて流れて行くのだろう。窓のカーテンに少し覆いかぶさって見えなくなりかけていた植物たちに彼の行方を聞いてみても答えは返ってこない。泣きそうになる感情を憂鬱の下に隠して植物たちを覆っていたカーテンをどかしてあげると彼等は嬉しそうに二三度葉っぱを揺らした。

植物たちの沈黙

2009.12.02