「こうして雨音を聴くと音楽みたいですね」

ぴちゃん、ぴちょん、ぽたぽた。がいっぺんに空から落ちてきて色んなものに当たり音を奏でる。ベランダから見る外の世界はあまりにも小さくて少し淋しく映った。硝子窓にへばりついている私が安倍先生には滑稽に映ったらしく笑いを込めた声色で云う。<

「こういうの好きだな」
「、ええ」
にはこういうのがお似合いだ」
「皮肉ですか、それ」
「よくわかってるじゃねえか」

ぴちょん、とベランダに置いてあった缶の中に雨粒が綺麗に入る音。
凄い、と呟くと興味なさげな返事が背後のソファーがある位置から聞こえた。振り向き真剣に聞いてますかと棘を含ませた言葉を投げかけるけれど、気にも留めない返事がまた来る。安倍先生みたいな人にはあの素晴らしさは解らないんだともう何を投げかけてきても返事をしてやるか、と無視を決め込むことにしてまた硝子窓へと視線を戻した。ベランダから一歩でも外へと手を差し出すと雨が掌を容赦なく濡らし身体がぶるりと震えて、また硝子窓越しから雨粒たちの行方を観察することにする。その様子を暫く眺めているとやがて、少しだけれど雨は音を出すような力を無くしていき、外からさあさあと静かに聞こえるくらいになる。頬を子供のように膨らませると興味なさそうにそっぽを向いていた安倍先生から笑いが漏れた。見ていなかったのではないのか、とむすりとした。

「興味ないのにどうかしたんですか、安倍先生?」

たっぷりの皮肉をこめて云い、眉を寄せていつも安倍先生がしているような表情を作ると全く同じ表情をした先生がいて、今度は私が笑ってしまった。たまに見せる弱い先生に私は嬉しくてたまらなくなる。それを知られたくないがために私は自身でも知らないうちに笑ってしまっている。そうしないとすっかり緩くなってしまった頬がばれてしまうからだと脳内で勝手に処理してくれているのだろう。

「おい、お前さん」

安倍先生の余裕が戻った音と、したり顔が五感のうちふたつが先生を感知した。
その瞬間私が頑張って隠していた頬の緩みはばれているのだと解ってしまって恥ずかしくなった。

レイニー・オーケストラ

2010.01.26