一度目の喧嘩は初めてのデートの最中、入った店先で頼んだ食べ物の量の違い。そっちの方がこっちよりも多いとか、勝手に横から掻っ攫っていく男の態度が女は気に入らなかった。二度目の喧嘩は男女が付き合うという事になったらする最低限の事。それを女が拒み、夜中だと云うのに大喧嘩になった。そもそも二人は昔からの顔見知りであり幼馴染、簡潔に云えば喧嘩友達。そんな二人が偶然白ひげ海賊団で再会するなんてお互い思いもしなかっただろう。あくる日もあくる日も云い合いばかりで周りを随分困らせた。それだというのにふとしたときに男は女を庇う行動に出たり、他の輩が女に近づこうとすれば獲物を追う犬の速さで飛んできた。女もまた然り、男の近くにナースが居たりすれば途端に機嫌は悪くなる。男との会話の間に女らしい顔を垣間見せ、他の男達の胸を掴んだ事もあった。お互いがお互いを思っているのだと気付いているのは周りの人間だけで当事者達は気付く様子は全くなかった。

ある日男に聴こえる声、女が好きである事、告白しようと云う内容。白ひげ海賊団内での恋愛が禁止という規律などいうものはなく、何も悪い事などない。それだと云うのに男はそれを耳に入れた途端身体が燃えている事に気付いた。もともと悪魔の実を食べた男にとってそれは何ら可笑しいことではない。敵に向かっている時のみだが。それを見た周りの人間は驚いてひっくりかえってしまう、隊長達を置いて。隊長の一人マルコは呆れた様子で男を見上げた。

「そろそろ気付いてもいい頃だろい」

何がと相変わらず火を噴きながら聞き返せば溜息混じりに好きなんだろい、と眼を瞑る。そこで男エースは女を好きであるということに気が付いた。撒き散らした火の粉を置き去りにエースはの居る部屋に走り出した。その翌日にはもう二人はお互いの気持ちを知り、恋人と云う形で上手く収まってくれたと誰もが思った。が、しかし元は喧嘩友達である二人の上に鈍感と不器用が積み重なっている。今までの空気を壊すには少々時間が欲しいようだと二人の祝杯をあげてから三日目にして全クルーが痛感した。今までの比にはならない程に云い合いは続き、大きな喧嘩はこれで三度目だった。しかも食堂のど真ん中でやられたら食事を取りにきた無関係の人間には堪ったものではない。

「んの莫迦っ!何でいつも重要な話の時に寝ちゃうのよ!」
「ああ?どーせお前の話なんてくっだらないもんだろーが。そんな事で怒鳴るな」
「くっ…くだらないってなによ!」
「くだらないはくだらないだろ!マルコがどうのなんて興味ねえっつーの!」
「仕方ないじゃない!私は一番隊なんだからっ!」
「仕方なくねえよっ!」

フォークに突き刺さったままの肉と顔面野菜だらけだと云うのに気にせず口論に参加するエースと顔を朱くして怒鳴る。途中エースが皿に顔を突っ込んでしまう処で一時休戦となり、起き出せばこの云い合いの繰り返しだ。そろそろどうしてやろうかと周りが考えあぐねている間に話の中心となっていた一番隊隊長であるマルコが食事を取りにやってきた。ああ、助かったと誰もが思ったのだがそれは間違いだったらしい。マルコの姿を見た途端口元が曲がっていたは明るくなり笑顔で手を振った。起きていたエースは背後を見るまでもなくそれが誰かだと気付いたのか自身との格差に眉を寄せた。はそれに全く気付く様子もなくマルコに向かって「隊長!」とかわいらしい声を上げた。何も知らぬ一番隊隊長はトレーを持ち誘われるがままに向かってくる。面白くないのは未だ顔面に野菜をつけたままのエース一人だけだった。周りの者たちは騒ぎが静まってくれるならばこの際何でもいいのだ。

「マルコ隊長!今日は…あ、ちょ…エース!?」

マルコが当たり前のようにの隣の席に腰掛け、笑顔を振りまくにエースは無言で立ち上がり言葉を遮った。まだ食べかけの料理も普段の男ならば考えられないことでも驚いたようだ。持ち上げられる腕に従って立ち上がり、引っ張られるがままに食堂を出、二番隊廊下まで引き摺られてやっと腕を放された。驚いているの顔を両手で挟みこめば更に眼は開かれる。エースと自身の名を呼ぶ音が耳心地善い。エースとはそこで初めて口付けを交わした。恋人という形になってから半年が過ぎていた。突然の事に呆然とする小さくふくよかな唇に思い切り噛み付く少しかさついた唇が口にせず、お互いに気分が善かった。

「…っん…えー…す…」
「…わりい、つい」
「ばか」
「…俺、との云い合いが好きだ」
「じ、つは……私も」
「マジか」
「マジよ」

三回目の喧嘩で学んだこと

2011/12/21群青三メートル手前