空にかける鳥達の様子を眺めながら浮き足立つ私に背後から呆れた声で制止をかける年中無休の三百六十五日仏頂面の男、セブルスが云う。唯一無表情じゃないのは大好きな教科である魔法薬学を学んでいる時か、本を読んでいる時くらいじゃないだろうか。そんな言葉を端から聞く気のないと分かっていても声を出さずには居られない性分らしい彼に対して笑いを込めればさして気分を害した様子もなく、黙るだけだった。冬は好きだけれどデメリットの多い季節でもある、寒い事と雪の所為で足場が酷く悪くなる事、セブルスが寮から中々出てきてくれない事もそれに当てはまる。だけれどこうやって出てきてくれた時は何よりも幸せな気分と、好きな季節、最高な一日になるからやっぱり冬は好きなのだ。

さくさく、と雪を踏み潰せば足の裏が冷たいと身震いする。完全防備で外に出てきたというのに全くイギリスの寒さには到底敵わない。セブルスと云えば年中どうやって季節を乗り切っているのか聞きたくなる程薄着な時もあるけれども流石に冬には勝てないのかマフラーと厚いローブ(二枚重ね)を着込んでの参戦に度肝を抜かれてしまったのは秘密にしておく。去年までは痩せ我慢していたのかと聞きたくなる程の変わりようだ。愉しいね、と後ろに向けて声を張り上げれば返事は返ってこず、どうしたの、と聞いても戻ってくるものがない事に振り返ればセブルスは眉間に皺を寄せ、ちゃんと後ろをついてきていた。どうやら私の杞憂だったらしい。

「返事くらいしてよ」
「こんな状況で出来るか、莫迦」

そういうセブルスのローブからズボン、靴先まで雪玉が彼についてきていてあまりの下手くそさに笑ってしまう。先頭切って歩いている私の足元はあまり雪がついてなくて、彼には沢山、やっぱり如何見ても可笑しかった。冬は嫌いだと眉を寄せるセブルスに冬の方は案外好きなのかもよと云えば毛糸に絡みついた雪玉が顔面に襲いかかってきて慌てて飛び退ければそれはまだ未開通の雪の中へと消えていく。憤慨すれば煩いと一喝され、怯んだ間にまた毛糸混じりの雪玉が身体に向かって飛んできて避けるを繰り返している内とうとうその内の一つは自分に当たる。言葉に出来ない程の冷たさだ。

「冷たい、」

当たった処から全身に浸透していく冷たさに愉しさは一気に急降下し始め、セブルスを見やれば自業自得だと云わんばかりの表情に少しだけ恨めしさを込めて見返す。雪玉がへばりつくのは私の所為じゃなくて冬が苦手なセブルスの歩き方の問題なのだから、と頭の中で文句を並べてもそれを口に出す程の力は残っていなかった。寒さを感じればスカートから覗く足元だってローブを着ていたにしても風で舞う度、足を動かせば何等かの形で外に出てしまう事が先程まで気にもならなかったというのに今は寒くて仕方がない。それを知らしめてくれたセブルスはと云えば戻るぞと云って勝手に来た道を戻っていってしまうのだから、私はそれを凍えそうになりながらも追いかける。

戻り道と云えばセブルスが通った場所はやはり所々毛玉が付着していて、私はそれを見ながら視界に揺らいで見えるローブを見る。さっき取ったばかりなのにまたそこには沢山の数え切れない雪が彼の後を追っていて本人が嫌いだろうが、やっぱり冬生まれは同じ季節に好まれている事を証明してくれていて、ひっそりと笑った事は誰にも云わないで欲しい。


校内に戻った私達は廊下を通る、後ろを振り返れば通った場所だけが不自然に濡れていた。暖まる場所へ行こうと云い出したセブルス。私もそれに同意権だった事から大広間へ向かった。どちらかの談話室、となるとかなりの高確率でセブルスが被害を被る(悪戯四人組がセブルスをいたくお気に入り)訳で、もしも私がスリザリンの談話室に出向いたとしてもセブルスの風当たりが悪くなる(主な原因は私が金色のネクタイをしている事だろう)結局は私じゃなくてセブルスが可哀想な事になるからだ。大広間は日曜日の早朝だと云う所為もあってか人は疎らでスリザリンとグリフィンドールが共にしていても咎める者がいなくてとても助かる。暖炉近くで二人腰掛ければ温かい空気が一気に身体を刺激し、雪の寒さでじんじんとした。

「セブルスが雪玉なんて投げてこなかったらもっと先までいけたのに」
そう悪態を付いて見せ、セブルスを見れば元々低い温度らしい指の背が頬を撫でた。
「寒かった癖に変に強がるな、僕の体温を持ってしてでもは冷たい」

条件反射で身体が跳ねるのを何を勘違いしたのかセブルスは微かに笑って、ほらなと云う。そういえばこんな笑い方をするセブルスを見たのは初めてだと気が付けば、暖炉の火が面白そうにゆらりゆらりと揺れ、元々青白いセブルスの顔を朱くする。私と云えば急に熱く火照り出した身体から云って暖炉の暖かさとは違ったものに朱くされたらしい。

01#はつ恋まであと3秒