セブルスは木にもたれかかりいつものように怪しげな本を読んでいた。気付かれないように足音を極力小さくし、草木を踏んでいく私の努力も虚しくセブルスは顔を上げて眉を寄せた。そんな顔しなくてもいいじゃないのと憤慨するもセブルスは素知らぬ顔で本を閉じた。文字を読もうと顔を傾げればどうやらその怪しげな本は魔法薬学だった。そういえば合同授業の時に先生に褒められていたっけと思い出す。彼の評価はそれ相応のものなのだ、と云えば嘘になる。例えば彼がどんなに努力した処で人望が厚い訳でもないし、私が居るグリフィンドールなんかは他寮であると云うか、スリザリン生に、否訂正する。セブルスに対してだけやけに風当たりを強くしている。それは彼をからかえばそれ以上の反応を返してくるのに一理ある。

「何で分かったの?」
心底驚いたように云えば、本で叩かれるのは必須だ。現に彼は本を膝に置いているけれどもそれがいつ飛んできても可笑しくない。セブルスとの距離は数メートルしか離れていないけれども私の足は数歩後ろへ進む。

「直ぐ分かる。気配を隠しきれていないからな」
「酷いね、」
「酷いと云われる筋合いはない」

確かにそうなんだけれど、と口篭らせる私に小莫迦にする鼻笑いをお見舞いされる。酷いのはどっちなのとは思う。本が飛んでこなかった安心感で遠ざかったセブルスとの距離を縮め木の下で此方を睨んでいる彼の隣に腰掛ける。気持ちが善いから此処に座っているのだと思ったのだけれど座ってみるとよく分かるがこの季節ではまだ肌寒くお尻がひんやりとして冷たい。セブルスは心底迷惑そうに顔をいがめるものの何も紡ぐ事なく、私の成り行きを見守っていた。善くもまあ、こんな肌寒い季節に冷たい土の上に身体の一部をつけられるものだと感心する。

セブルスの血の気は青白く今にも倒れそうな色をしているにも関わらずこれが彼の日常血色と云うから驚きだ。これが冬だと雪と並んでしまえば最後彼が何処に居るのかさえ分からなくなりそうな程で、隠れ身の術(最近気に入っている日本の話で出てきた)をしているのかと聞きたくなるくらい。その割に彼の私服は何をとっても黒で統一されていて白、と云うよりは青白い彼からは不健康そうに見えるだけだ。(白い肌には黒が善いと云うけれども彼の場合は違う)何をとっても病的に見えてしまうのはセブルスだけだろう。

「いつも此処に居るね?」

湖近くのこの木の下は春になったからと云ってあまり善い場所ではない事はこの今深々と感じている寒さで善く分かる。それでもセブルスは季節問わず此処で本を広げ静かに一人居るのだと私はいつ頃から知っていたのだろうと記憶を遡らせてみるもあまり記憶力が宜しくない私の小さな脳みそでは幾ら大好きなセブルスの事だとしても思い出せなかった。セブルスは本の上に掌を乗せ開いたり閉じたりして私を睨んだ処からこの質問の答えは聞き出せないと思ったのだけれどあっさりと彼は口を割る。

「喧しい奴等は寒さに負けて此処までは来ないからだ」

表情とは対照的に答えたセブルスに視線を遣れば鋭い視線は変わらずそこに存在している。喧しいとはきっと、と予測を立てなくても決まっているだろう。そしてその煩わしく喧しい奴等の中には私も含まれているとセブルスの眉間の間に出来た年齢の割にはもう既に三十代の皺の深さが語っている。それでもめげずに彼を追いかけていく私をいつ彼の方から煩わしいと云われるのだろうかと少しだけ怖い気持ちでもある。私はにこにこと口元を緩めた。

「セブルスって実は暑がりとか…な訳ないよね」
制服の袖から伸びる手首から指先までの血色の悪さを見ながら、相変わらず酷いなあと感じる。口に出せば尚更否定的な事ばかりが頭に浮かんでは消える。こんな色の人間が暑がりな訳がない。それはセブルスも同意権らしく私の言葉に思い切り莫迦にした笑いを含めて飛ばした。

「別に寒くも暑くもない。保温効果の魔法を使っているからな」
「ええ…!酷い、ずるい!私だけ寒さと対峙していたって事!?」
「寒ければ魔法をかければいい話だろう」
「私がこういう事が苦手だって知っていて云っているでしょう、」

当たり前だと鼻で笑うセブルスは掌を伸ばしきりそのまま本の角を短い爪で引っかく。私が云うこういう事と云うのは杖を使った授業殆どが致命的、救いようがない程下手くそだと云う事を差す。変身術で、闇の魔術に対する防衛術で、杖を一振りすれば教室を爆破し兼ねないと云われるくらいの実技なのだから今セブルスが自分で、と云ったのを私が素直に聞き入れて自身に魔法でもかけてみれば自分の身体が無くなってしまっても何ら可笑しい事はないのだ。その破滅的な事柄は今やホグワーツ全員が知っていると云っても過言ではない。と云うのにセブルスは意地の悪い事を云う。本当に厭な奴だと云ったり思ったりしている癖に隣にいつも居座っているのだから世話ない。

「いいよ、セブルスの体温貰うから」

そう云いながらセブルスとの距離を大幅に縮め寄り添えば、先程までの厭味ったらしい笑いや発言は何処へやら突然慌て出し伸ばしっぱなしの指先が攣ったように震える。おい、と批難めいた言葉(それでも何処か震えている)を発したセブルスの肩に頭を乗せて何、と聞く。先程とのあまりのギャップに内心慌てているのは私も同じだったけれどもそれを悟られるのは酷く恥ずかしいと頭をセブルスの肩に乗せる事によって彼からは私の表情が窺い知る事が出来ないと云う利点がある。それに気付く事さえ出来ない程に困惑しているのかセブルスは本の上に乗せた手を浮かしたり落としたりしている。(指先はもう攣ってなかった)保温魔法を使っているだけあってセブルスの身体は寄り添うだけでとても温かく感じる、魔法だけの効果じゃない事は尋常ではない胸の跳ね方で自分自身善く分かっていた。

「暫くこうしていて善い?」
「僕が拒否してもそうするつもりだろう」
「善く分かってらっしゃる、流石」

返って来ないと思っていた返事がまたもや期待を裏切られあっさりと返って来た事に少し頭を浮かせれば微かに肩が揺れたのが分かり、やっぱりセブルスは意地悪だと心底思った。(もう戸惑いは消えていて平然と本を開いているし、詰まらない)視線を建物へ写せば丁度善く図書館の隠れ場所から此方の様子を見ていた知らないレイブンクローの生徒と眼が合い、驚きに見開かれた眼が直ぐに他所へ向いて姿さえも消えるのを見てこれをセブルスに云ったら叱られるだろうなあと一人思案した。眼を瞑る私の視界の隅で見えた魔法薬学だと思っていた本が実は違ったと云う事に気付いたのはこの年の夏休みの事。

04#知らない秘密に触れるとき