悲しい顔をさせると判っていながらも女禍と共に消えることを良しとした己をはどう思うのだろうと一回想像してみると自分らしくない恐怖が湧きあがり途端に彼女に触れたくなったのだけれども己の身体は女禍と同じようにぼろぼろと落ちていくしか術はなくその願いも虚しいだけ。生きるとも、死ぬとも約束を一つたりともしていないに云う言葉などないが、己が彼女を想う、彼女が自分を想うそれだけで一つの交わりを交わしていることに太公望は腕が落ちていくところで気がついた。そして願ってはいけないことを願いそうになることに胸が締め付けられた。会いたい、けれど会えないだろうともう判りきってしまっているというのに諦めの悪い性分が突き動かす生命の輝き。それを阻止するかのように身体の朽ちる速度は急激に上がり腕は半分までになっていた。伏儀になった自分をは少し淋しそうに、けれど嬉しそうにして生きていたことを喜んでくれたというのにその嬉しさもあっという間に意味を成さなくなることは自分はきっと気づいていた。こうなることくらいその為の保険、なのだからなって当たり前だろうと。力を持ちすぎたものはいつか朽ちるもの、それが遅いか早いかの違いだどうせ悲しませるのなら早い方がいい。そうしたら太公望という人物を忘れて幸せを見つければいい、最初は悲しませるかもしれないがやがてその溢れんばかりの感情は終止符を打つときが必ずやってくるその時までの苦しみを与えるのは忍びないけれど仕方のないことだと身体とは云い難くなっているそこから肩が落ちていくのを感じ思った。(それでいいの、太公望ちゃん)意識が薄れる、誰かの声がする、への想いを口に出しながら大きな光は彼等を一瞬で闇へと連れて行った。

(僕に言えることは、ひとつしかないから)

(20090829)(×)(只、君の幸せを心から願う)