朝起きてまずすることは隣に置かれたもう一つのベッドが使用されたか否か。癖となってしまったこの行為は中々止めようにも止められなかった。どうせいないことくらい知っているのに、居ないのを見て絶望してため息を吐くなんてこともう今日で終わりにしようと思いながらも一日一日時を刻む、朝がやってくる度それを止めることはなかった。 彼は帰ってこないことなど、この世に存在しないことなど申公豹の霊獣黒点虎の持つ千里眼で確認済みだ。泣きたい衝動を抑え、震えそうになる声を抑え、いっぱいいっぱいの胸と真っ白な頭でやっと吐き出せた言葉は否定の言葉だった。首を振る申公豹を殴りたい衝動に駆られながら、震える拳から滴り落ちる赤色の液体も全ては嘘のようだと思ったのに、楊ゼンが私を呼んだことで篭ろうとしていた殻から無理やり現実へと呼び覚まされた。 「楊、ゼン」 いつの間に部屋に入ってきたのかと扉のところで立っている楊ゼンに聞くと彼は困ったように笑う。その笑い方をする訳を私は自分自身しっかりと知っていた。そんなことをしなくてもしないよと云っても楊ゼンは信じてくれないし、四不象も武吉くんも昼には顔を出して帰っていくのは楊ゼンが来るぎりぎりまで。随分信用されていないなあと眉を下げて笑うと楊ゼンは当たり前ですと私を咎めた。
「もう、あんなの目撃するのは厭ですからね」 吹っ切れたと云いながら私は毎朝隣を確認せずにはいられないし何処かあの人が帰ってきている痕跡があるかと調べてしまうのだって吹っ切れたのならする行動じゃないことくらい知っている。けれど、口先でこうでも云わないと楊ゼンは信じてくれないだろうし、私もそう云わないとあの時のように心が壊れてしまいそうだったからだ。まだ好きだと云えばあの人が居ないことを肯定するようなものだ、私は必死になって楊ゼンに笑いかけるけれど楊ゼンは眉間にシワを寄せる。 「忘れろ、とは云ってません」 じゃあ、私にどうしろというの。今までにない楊ゼンの言葉に私は酷く戸惑い、目線を宙に浮かせる。子供のようにワンピースの裾をシワになるくらいに握り締める、それを楊ゼンは見つめ、私の瞳に視線を合わせた。 「、寧ろ覚えておかないといけない貴方の大切な記憶でしょう」
私はその言葉に糸が切れた。扉まで走って楊ゼンに飛びついた。 (君が居なくなって、これで何度目の朝だろう)(20090829)(×)(泣きながら貴方を想わない夜はないわ) |