姫昌様が眠るようにして亡くなったのを見届けた次の日から私の胸にはぽっかりと空洞が知らないうちに出来ていてそこからは風ばかり通っていき暖かさも冷たさもその風からは感じられなくなった。食欲も自然と落ちた。侍女として城にいる私は機械のように何も受け付けない胃と空洞を新しくつけながら働いた。不思議とそれは辛いものではなく、同じ作業を毎日繰り返していくだけの人間の人生と何ら変わりなかった。食べ物を食べなくても私は生きていけるんだと思ったら今まで何故食べていたのだろうと解らなくなった。喜怒哀楽もそこには存在しない、笑い方も解らなくなっていて、それでも生きているんだと解ってしまったら逆に感情なんて存在している意味が解らなくなった。洗濯物を干しに外へ向かう途中で妃発様に声をかけられた。私は普段と同じ表情で彼と接するけれど彼の表情は話していくうちに少しずつ顔色を悪くしていくのに以前はどう心配してどう言葉をかけたのか思い出すことが出来ずに今の私が出せる限られた言葉を出したら彼の表情は覚えている中で一番酷いものになった。

姫昌様が死んでから十日が過ぎたある日の夜真っ暗な部屋にぽつぽつとしたものが床に映る、その跡を辿ろうと目線を上げるとその模様はカーテンにまで染みていた。窓から外を覗くと空一面に光る星達が目に映る。少し前の私ならなんて云っただろうか、綺麗、と云って笑ったりしたのだろうか。それもこのたった十日という時間で解らなくなってしまった。「凄いのう、」姫昌様が連れてきたあの軍師様だ、と私は自然と身を窓から引いた。隣の部屋で軍師様が空を見上げて感嘆の声を上げたその声を聴きながらまた見た星達は以前と違って、見た途端私は吐き気が襲い、完全に窓から遠ざかった。異物が喉を刺激する。蹲り、カーペットに零れる液体に涙がぽつりぽつりと落ちた。苦しくて、悲しくて、痛くて、云いようのないものが胸から口元に広がる。隣にいる人への迷惑を考えられないまま私は嗚咽を漏らした。あんなに泣けなかったのに、今になって落ちるものにまた吐き気がしてカーペットを汚す。認めたくなかった、あの優しい人がこの世から居なくなってしまったなんて。認めたくなかったのだ、だから私は食べなくても大丈夫だったのだ。そう気づいたら、悲しみが、苦しみが、身体を襲う。窓から部屋へと零れる星が心を矢で貫く。きい、扉の音。汚い姿のまま反射的に振り返る、視界映ったのはあの軍師様だった。

(きらきらのお星様に耐えられない)

(20090829)(×)(、おぬしも思うだろう?)