ほらそうやって誰にでも優しくするの、嫌いじゃないのに私はそういう風にする貴方に嫉妬している。私だけのことであって欲しいと思うのは変なことじゃないでしょう、恋人の片割れとしては。それでもね、それを知っていても貴方は私以外にもたくさんの慈愛に満ちた表情を浮かべ人々を救っていくんだわ。悲しいことじゃないの、嬉しいことだよ、でもほんの少しだけ寂しいなと感じてしまうのは仕方がないことでしょう?

「さみしいよ、たいこうぼう」

喧騒の中じゃ私の声は太公望に届かない、届くはずもないと判っているから私は淋しいと簡単に口に出すことが出来るんだ。貴方の目の前じゃ臆病な私は自分の本心を告げられずにいて、淋しいということでさえ云えないどうしようもない女なんだよ。それでも貴方は時々そのどうしようもない女である私に対しても優しい表情を浮かべてくれるからこの気持ちはそこで巧く私の胸に留まってくれるの。それだって私だけ知っている貴方の表情じゃないから私の淋しさは一時は止まっても直ぐに動き出してしまうんだ。それくらい淋しい、私だけの貴方を知らないことがこんなにも辛いなんてこれも太公望、貴方が教えてくれた感情だよ。

、」
「どうしたの、太公望」

喧騒の中にいた太公望はいつの間にか私の目の前にまで来ていて、その瞬間移動に私は目をぱちくりさせたら太公望は頭を押さえながら私を見た。別に太公望に呆れられるようなことはしないようにと今日は静かに人ごみの外に居たのにそんな顔されちゃ折角外に居た私が莫迦みたいじゃないの、と思いながら再度太公望にどうしたのと聞いたら丁度私の居る位置には喧騒からは死角になっていてそれを知っている太公望は私の腕を少し痛いくらい引っ張って壁に押し付けながら接吻をされた。また目をぱちくりさせて太公望の顔を見ると太公望はいつも見ていたどれにも属さない表情を見せてくれて私は不意に泣きそうになった。

「ちゃんと想ったことは口にせい」

喧騒にへと戻っていく太公望が残した熱と言葉に私はだいぶ遅れてから顔が発火した。そして少し離れた場所で貴方はさっきののごりの笑顔を見せた。厭だよ、私以外にそんな笑顔見せないで、貴方の背に居る眩しいくらい輝いてる陽が貴方を連れて行ってしまうそんな気がしてならなかった。

(太陽がキミをお呼びだ)

(20090829)(×)(太陽なんかに貴方はやれない)