ぐるりと世界が一回転二回転、それだけでは飽き足らず何度もぐるぐると渦を巻いては私を困らす。どうにかしておくれと口を開けるとぱくぱくと空気を口に含むなんて無意味な行動なのだろう。芝生に思い切り寝転んでいつもの貧血から逃げ出したいと云っているように目を閉じてそれをやり過ごそうとしていた。目を瞑ると渦からは太公望、伏羲が私を見つめてはしたり顔を見せて消える。突然浮かんだ彼の姿に貧血は酷くなり寝ているのにも関わらずくらりと地面よりももっと地下へと落ちて行く感覚がした。久しぶりに浮かんだ彼の姿は笑ってしまいそうになるくらいいつもの彼だった。

「眩暈が酷くなったのはあいつの所為ね」

全く、居なくても人を困らせるのがお得意の彼はまだ四不象と武吉から身を隠しているのだろうか、消滅したと云われてから一度も彼の姿を見て居ないけれどしぶとくどこかに居るのだろうと肌でなんとなく彼を感じているから姿を見なくても別に淋しさは感じなかった。姿を見たがっている彼等にだけはちゃんと見せてあげればいいのにと想うのだけれども彼はそんなに寛大じゃなく、どこまでいっても意地の悪い人だからきっとこれからも彼等をからかうのが一生の楽しみになったりしているのだろう。

「家庭内害虫並みの生命力よね」

潰しても潰しても繁殖の数には追いつけないくらいの多さは彼の生命力のしぶとさと何処か通ずるものがある。でも決して彼が家庭内害虫のような気持ち悪さまで受け継いでいるわけではない、そこだけは唯一の救いと云うべきか。草が背中を突っついてちくちくと少し痛いな、と思ったのと別に心はふっと力が抜けたようになり驚いた。まるで彼に対しての事に安心したというのだろうか、居なくなった時も別になんとも思わなかったのに、心は何故こんなにもほっとしているんだろう。頭の中で彼への感情を考えてみるけれど、今の今まで感じることが出来なかったのだから直ぐには分からなかった。

(奇跡からの逃走)

(20091218)(×)(ああ、考えるんじゃなかったわ)