突然のことで驚いた。自分の両脇から突然腕が生えてきたら誰だって対処に困るし頭がそのことについていけない。手に持っていたお皿を危うく落としてしまう一歩手前で太公望がその落としかけたお皿を手中に収める。自分の手にはないお皿が脇から生えた太公望の手の中にあることが奇妙で暫く沈黙が続いた。いつもはしない太公望の行動に驚くのも当たり前だと後ろを振り向けない状態で憤慨すると太公望は反省の色など全くないような笑いを含んだ声で詫びた。

「反省なんてしてないくせに、」
「何故わしだとわかった?」

話をはぐらかすのが上手な軍師は私の言葉に耳を傾ける気はさらさらない。 強まる腕の力に怒るでもなく、されるがままになっていたらお腹辺りを潜伏していた太公望の腕が上に伸びてきてこればかりは、と手の甲を抓って叱咤したら後ろで笑う彼が居る。まんまと私は彼の遊び道具になってる、と悔しいけれど云い返さない。言葉でも勝てる気がしないから、変に体力を使うよりも最初から云わない方がいい。そんなことを思っていると後ろからもう一度同じ問いを投げかけてきて、お皿を太公望から奪いながら云う。

「こんなことするの太公望くらいよ」
「そうかのう」
「そうよ、だからいい加減離して」
「抜け出せるものなら抜け出してみい」

太公望の腕から逃れようと身を捩ったけれどその締め付けは抜け出そうとすればするほど腕と身体の間が減っている気がして、暴れるのを止めた。少しだけ背の高い太公望の鼻先が耳に太公望の笑いが耳を掠めて頬を朱くしたけれどきっと見えないだろうと思った。けれど太公望が耳元で笑いを含んだ声を出すものだから私が顔を朱くしているのがばれていることがわかる、きっと耳まで朱いんだ。

(覆い、隠し、抱きしめる)

(20091123)(×)(恥ずかしい)