うとうと。今にも机にくっ付いてしまいそうな程に頭が項垂れ、数秒後はっと気が付いたようで頭が元の位置に戻る。それもまた数秒という短い命の元で形成されたものでまた前のめりになる。こんな状態になるのも無理はない。時刻はとっくに人に限らず生命あるもの殆どが眠りにつく時間帯なのだから。それでもこうして起きていようと頑張っているのは仙人界に来てからと云うもの一心不乱に修行を続けているの弟弟子、太公望の帰りを待つ為だった。太公望は二十と数年前にの師匠、元始天尊が連れ帰ったスカウト漏れの少年だった。仙人骨があれば誰にでも仙人になれるという(訳ではないのに元始天尊はそれらを省いて話した)言葉に太公望は飛びついた。何故元始天尊はそれらを省いてしまったのか、には謎で仕方なかったのだが、二十年と八年程彼を見てきてその理由が分かる。太公望は陽気な性格と真面目さがあり、直ぐにでも仙人界に馴染んだ。姉弟子としても二十数年で此処まで取得するとは思えない程の飛躍振りに眼を見張る。(告げてしまえば彼の悲しみは底をついてしまうであろう)と元始天尊は云った。

それでもまだ仙人には程遠く、姉弟子であるからも僅かではあるが下位を守っていた。それでもあと何十年、否何年かあれば姉弟子をも飛ばして行ってしまうのだろう。誰にでも能力の限界がある。は太公望を見て思った。自分はこれ以上能力が高まらない事を。少しの悔しさと、弟弟子にならという甘さを混ぜながらこうして毎日遅くまで少年を待つ。汗をたっぷりしみ込ませた道着を着込んで、風邪を引く事も厭わない様子で戻って来る。洗濯を、と手を差し出せば少しおませな態度で「自分でやります」と云われるのがおちなのだが、姉弟子はそれでもそんな太公望が可愛くて仕方ない。朝にと寝入った太公望を見届けてから道着に手を出すにこのところは諦めたようで「お願いします」に変わった事が何よりも嬉しかった。の体内時間が正しければもうすぐ扉が開く。起こさないようにそっと扉が開き、キョロキョロと辺りを見回す可愛い弟が。夜食もまだなのだろうから、と用意したスープを温めにかかった。

(帰ってくるまで、起きてるからね)

(20110125)(×)(愛おしいあなたの為に)