生温い関係ではないことくらいわかる。敵と味方、もうそれだけで十分な関係だ。師叔は本当に彼女を心の底から憎んでいたのだろうか、最初はそうだったとしても封神計画という命を遂行していくにつれて変わってきたと私の目からはそう映った。けれど世間一般で云う、愛とか恋とか甘いものではなくそれ以上のものでふたりは繋がっているんだと確信めいたものがあったのかもしれない。想いを寄せている相手なら尚のこと気にならない筈がなかった。

「すきなの?」
「何をだ、?」

唐突に出た好意を寄せる言葉に師叔は訝しがったが付け足すこともしない私に溜息を落して米神をぐっと抑えた。それはたまに見せる師叔の考える時のポーズでもあり人前じゃなかなか見せることはしない。これをする時の師叔は相手に安心感を持っている時だと私はよく知る。だからと云って私はあまり嬉しくなかった、彼女に見せる彼の感情なんかに比べたらこんなもの芥と一緒だからだ。ふたりにしか分からない感情の行き来、それがたとえ怒りだったとしても彼女にはそれさえも愛や、恋なんかよりもずっと素敵なものに変わることを彼は知っているのだろうか。彼女の名を呼ぶ師叔の声は怒気が含まれていても何処かそれは不完全なものだということを知っているのだろうか。私は最悪なことに気づいてしまった。こういう時は厄介で、好意を寄せている相手のことを知りたいが為に脳は勝手に彼を分析する、そして要らないものまで運んでくる。見たくもないものまで。「妲己、のこと」口にも出したくなかったけれど、幾ら師叔が優秀な脳を持っていたとしても肝心なところが抜けていたら答えようがない。だから私は云った。

「どうして、おぬしはそう思うのだ」

師叔は明らかに先ほどとは違う感情を込めた声で私に向って放ったそれは見事私の恋心を粉砕してしまう。怒りで隠しているように見えたけれどその奥底では彼女に対する感情が隠し切れていないことが私にはまたもや分かってしまった。余計なことに脳は未だに解析中だったりしたのである、けれどもうそれも師叔が放ったオーラによって壊れたことは確かだからもう機能することはないだろう、これからも永遠に。私は師叔がどうしようもなく好きだった、姿をずっと見ていても飽きなかった、それが瞬間であっても幸せになれた。けれどそれももう解らなくなってしまった。「ねえ、解らないのは私なのそれとも師叔」解らないわからないよ、あの甘酸っぱい想いは最早頭に浮かべることもできなくなっているけれど変わりにどうしようもない渦巻く怒りでも悲しみでもない何かが息苦しく胸を締め付けた。

(自覚する前に狂いそうだった)

(20091107)(×)(もう既に狂っていたけれど、気づかない振りをしていた)