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元始天尊様から太公望師兄と一緒に修行をと云われてから次の日、修行と云われても直ぐにだとは云われていない、だから今日と明日は書庫に篭ろうと心に決めた矢先のことだった。いつもは人一人、音も何もしないこの場所の廊下に今日は珍しく人影があった。誰だろうと思った好奇心はその人までの距離が六メートル程になってから一瞬で消え去った。書庫のある前に立っている大きな柱にもたれ掛かりながら天井を見ていたのは兄弟子である太公望師兄だったからだ。 驚いて歩む足が止まり、目が落ちそうな程、開眼させて兄弟子を見つめると兄弟子は不気味な笑いを顔に貼り付けて態とらしく今気づきましたよと云わんばかりの仕草をして私を見た。 「おお、こんなところで偶然だのう」 「…その貴方がいうこんなところで何をしているんですか、師兄?」 「刺々しいのう、おぬしを待っていたに決まっておるではないか」 「私を…?」 うむ、と云って師兄はいきなり私の腕を掴んで来た方向を逆戻りに進んでいった。突然のことでなされるがままにされていたが、外に出る一歩手前まで来たところでその腕を振り払った。予想はしていたのか彼は然程驚くことはせずにやりと笑ったそれは気味が悪くとてもじゃないけれど笑い返すようなものではなかった。 「今日から修行を始めるからのー」 聞き返す間もなく師兄は私の腕を再度掴んで少し離れた場所にある岩へと跳んだ、が何も持っていなかったらしく師兄は落ちていく。それも私の腕を掴んだままだったのだから一緒に、だ。浮遊感が襲い恐怖が一瞬でも脳を支配すればそのまま二人して落ちていったに違いないのをどうにか宝貝を使って浮くことに成功し、師兄に信じられないという目で凝視した。もし出来なかったときのことを想像するだけおぞましいのに彼は悪びれた様子もなく感嘆の声を上げている。 「おー凄いのう!おぬしの宝貝は!」 「…あ、危ないじゃない…!」 「無事なんだからよかろう!それに…」 「………?」 「おぬしやっと、棘のような気が少し気が緩みおった」 してやったりといった表情をして此方を見た師兄に口元が引きつりそうになり、どうにかポーカーフェイスを崩さないように勤めた。 「……気のせいじゃないですか、師兄」 「ほんと、かわいげないのう」 「落としますよ、此処から」 「それは困る!さっきのは前言撤回する!」 「………」 彼の云う修行はなんというか、なんとも云えないようなものだった。師兄は初日だからお勧めの場所に連れて行く、と云った。それに大人しくついて行けばそこは桃が沢山生っている場所だった。来たことないと知っていたらしい師兄は蟠桃園だ、と云って勝手に中に進んでいく。師兄の後に続こうと、園の入り口に足を踏み出そうとした時ふと目に入ったのは荒々しくではあるがご丁寧に注意と書かれた看板が突き刺さっていた。 (命が惜しくば入るべからず…) その書かれいてた文字に目を通してしまった自分にはこれ以上この蟠桃園に足を踏み入れる勇気などない。踏み出した足も園の外に出して数歩蟠桃園から離れた。 つい昨日も聞いたような爆発したかのような音が園の方からし、また数歩後ずさるともの凄い勢いで師兄が両手に沢山の桃を抱えながら飛んで戻ってきた。どうやらこの看板の文字はあながち間違いではないらしい。ため息などつく暇はなかった、その後ろで此処に管理人らしき人が世にも恐ろしい形相で走ってくるからだ。つりあがった口の端をひくひくと痙攣させた。 「し、師兄!此処立ち入り禁止じゃないですか!」 「煩い!はよう走れ!捕まったらただじゃ済まされんぞ!」 「ってなんで私まで…!師兄だけでしょ!悪いのは!」 「ええい、おぬしも妹弟子であろう!罪は一緒にかぶるもんじゃい!」 この後のことは何も云うことはあるまい。 岩の上で二人して息をしているのだから、もしあの時捕まっていたのなら今命などあるものか。そしてあの状況でも決して桃を手放さなかった師兄に、この莫迦師兄と呟くと寝そべっていた彼は笑っただけだった。
そして命の源となる (20090707)(← ↑ →) (貴方でしか手に入らない) |