一ヶ月しかまだ経っていないというのにもう一年以上も心、身体共々酷使したかのような疲労感がずしりと圧し掛かる。いまの今まで全く外に出なかった為か体力は地に近い程落ちていたことに気がついた何故ならば、この一ヶ月間師兄に弄られ、追いかけ、追いかけられの繰り返しをしていたからだ。ある時は桃を持ち逃げする師兄を何度も目撃し、追い掛け回されていた彼を助けては(空を飛んでいる私の宝貝の上に無理やり乗った)またある時は修行と称された遊びを何度付き合ったことか。



昨日も例外ではなく追いかけてくるものだから条件反射でこっちも逃げ回るというのが半日続きそれでもあの地面にへばりついて取れない粘着力の強いガムのような師兄は諦めることなく、結局折れたのだっての方だった。








「元始天尊様!」


か、何用じゃな?」


一ヶ月と三日、よく私は我慢して師兄という人と行動してこれたものだと今更ながらに感じた。今日という今日こそは意義を申し立てなければ自分の命が幾つあっても足りないと思い立ち師兄が桃に目がいっている間にその場から逃げた。




「師兄と一緒に修行する件なんですが、」


「話は太公望から聞いておる、上手くいっておるようじゃの。それに、あやつも怠けたりしておらんようじゃし」


「そんなことは…っ」


「そうですよ、元始天尊様。わしもちゃんとやっておりましょう」



肩に手を置かれたのと同時に横の方で声がした。
それも自分が今一番聞きたくないと感じている人だと瞬時に脳が察知したのだが、その人物を確かめるのも末恐ろしいと感じるのは半強制的にこの一ヶ月と三日共に行動してきたからなのか。わからないが石のように固まってしまった自分の身体は彼の手を叩くこともせずそのままだ。声も同じような症状に見舞われて、このまま修行は太公望に任せるという言葉にさえ否定する事も儘ならなかった。





そのまま師兄によって強制的に外に出され、先程逃げてきた場所にまた戻ってくる間も師兄との間に会話など一切ない。 師兄の顔を見ることも出来ず気まずいままでいるとぽすんと、頭に何かが乗ったのを感じた。その突然の重みに顔を上げると師兄は私の想像していた表情などしておらず、頭の上に乗せたものを私の手の平に置いた。






「ほれ、」


「…ありがとうございます」



それは師兄が好物としている桃だった。
手に乗せられたその桃を見つめると、師兄は食べぬのかと微笑みながら云っただけなのに何故か恥ずかしくなった私は手の平に乗っている桃をかじった。



「……、のう」


「、なんですか師兄」


「厭ならば良いのだぞ」



拍子抜けするような言葉に、表情は身体と同じく硬直し何も考えられない程頭の中は真っ白になった。確かに先程まではそう思っていたかもしれない、けれど師兄本人から云われると何故かそんな気が起きなくなる、寧ろまだ一緒にいたいと思わせるような雰囲気を持たせる不思議な人。その思いが巡ってはっとなり頭を振る。これでは彼の思惑通りではないのだろうかと疑うけれど師兄はそんな私の考え等端からお見通しだと云わんばかりの態度に考えることを止めた。




「おぬしの好きにするがよい」



師兄は自分の分の桃をかじりながら云った言葉が頭に反芻するが意図が読み取れない。その反面で浮上してくる記憶に身体が跳ねた。昔母親が云ったいつか出来る大切な人、それは恋人でなくてもかけがえのない人が出来るときが必ずくるからその時まで頑張りなさい。大切だと思わせ、思うような人になりなさい。突然思い出した言葉に声が漏れる、師兄が不思議そうに此方を見た。




「い、え…私、も……師兄といるの、」


「………」


「……厭ではないです」


「そうか、」


「はい」













掴んだものは幻か






(20090721)( )
(実感できるほどの感触)