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「師兄、元始天尊様にああ云ったからにはちゃんとしたほうがいいと思うのです、が」 「わかっておる」 「じゃあ何でこんなところに来ているのでしょう」 「さあ」 「………」 今日もまた修行と称されたおサボりに無理やり連れ出された私は、人間界の川に師兄と来ている。何十年ぶりに降りた人間界で最初に行く場所が川というのは微妙なところだが、一時間も経てばそこに風が少し流れるだけでとても気持ちがよくて久しぶりに降りた場所が川というのもいいものだと思い始めた。隣で縫い針を釣り糸に付けて水に付くか付かないかのところまで下ろして魚を釣るでもなくぼんやりと相槌を打つ師兄にはため息が出るけれど。 しかし今日は少し違った。確かに呆れるのもいつものことなのだけれど、その師兄に対しての呆れは私だけではなかったところが少しの違い。 師兄の隣には雰囲気からしてほんわかとした師兄と同じくつりをしている人がいる、初めて見る人なのになんとなくこの場所のピースにはまっていて違和感が皆目無かったことに驚いた。師兄は誰だと紹介するでもなく、その彼と度々目が合っては軽く会釈をするという奇妙なことになっているこの場にこの人がいなければ師兄を蹴り飛ばしていたところだ。この雰囲気に流されて名前も知らずにさようならとなりそうだと本能がいい、師兄に一生懸命殺気じみた視線をで訴えるとそれが通じたのか師兄はちらりと此方を見てその彼に視線を持っていく。 「こやつは普賢真人と云ってのう、十二仙の一人に数えられておる」 そう云って師兄は垂らしていた釣り糸を引っ張り上げた。勿論その先には魚など付いているわけがない。師兄を挟んだ向こう側にいる普賢真人という人は此方を見てほんわかとした空気を纏いながら笑った。 「初めまして、…ちゃんだよね」 「は、じめまして…なんで名前…を?」 「それはね、」 「わしがこやつに教えたのだ!な!そうだったのう、普賢よ!」 「そうだね…っ…」 「………?」 師兄にしては珍しく顔を真っ赤にして慌てて彼の口を塞いだその飛びつきようが凄くて呆気に取られている中で彼はさして驚くこともせずそんな師兄に対して笑いを堪える事が出来ずに言葉が震えていた。それにまた師兄が更に顔を赤くして怒っているのを理解が追いつかなかった私は頭を悩ませた。 とにかく、とその場が静まった頃合いに師兄が口を開くが普賢さんはまだ可笑しいらしく肩がゆらゆらとしている。私も普賢さんが名前を知っていた理由が納得できなくて師兄を見たけれど彼は無視を決め込むばかりで答えてくれる気はさらさらないようだった。 普賢のことを紹介すると最初は緊張気味だったもあっという間に打ち解けてしまった、話す言葉は棘棘しくも系統は似ているからすくに打ち解けるだろうという仮定は正しかったようだ。が、が先ほどからわしの方を見ることなく普賢と話しているそれが何故か面白くないという感情を心に感じた。先ほどまではあれほど頼りなくわしの方を見ていたというのに。と、釣り糸を括り付けている棒を無意識のうちに必要ない力で握り締めてしまいみしり、と厭な音がした。これが娘を嫁にやる気分のようなものかと隣の和やかな雰囲気を感じながら思うが何もしない。それが、これだから年よりくさいと云われる原因のひとつだろうが直す気はさらさらない。 (普賢さんって…)(さんは余分かな)(あ、でも…)(僕がいいっていうんだから)(え、っとじゃあ…) 普賢の垂らしていた釣り糸はもう水の上さえも付いておらず地面に置かれていた。 元々つりをするつもりで垂らしていたわけでもない。恥ずかしそうに顔を俯かせながらは普賢のことを呼び捨てにする光景なんて見てられない。そんな二人の様子を見てはあ、とため息を吐いてつりに集中しようと視線を普賢から川に戻そうとしたとき、普賢の口元がいつもと柔和なものではなくなったのを尻目で捕らえ厭な予感に背筋を凍らせた。その厭な予感は当たり耳に入ったのは、先ほどの名前をどうして普賢が知っているかということ。普賢はの耳元に唇を寄せたのと普賢からを遠ざけるのとどちらが早かったか。 「あれ、望ちゃん嫉妬?」 「ふ、げ、ん!」 「っ、ごめんごめん。あまりにも面白くて…つい」 は状況が読めないようで腕の中で固まっている反面、普賢は謝ってはいるが表情は今までに見た表情の中で上位に来る程の面白そうな笑みを浮かべていた。
惜しみなく輝いたあと (20090807)(← ↑ →) (いつでも貴方は輝いている) |