|
師兄は何処に行ったのかは知らないが不在と白鶴から聞いたし、その言葉以上に奇襲をかけてこなかったので勝手に休みだと決め付けた。外は快晴、というより雨なんてあっただろうかと思ってしまう辺り師兄と会うまでは全く回りを見ていなかったことに気づく。自然と洩れた笑いに恥ずかしくなって誰もいないというのに顔を赤くした。 「そう、だ」 師兄と一緒に行動するようになってからは一度も行ってなかった書庫へ行こう。これも部屋にいてもやることがない所為だ。宝貝を握り締め外に出た。 玉虚宮を通り過ぎ、進んでいくと小さな岩が浮いている。そこが書物保管室の場所だった。何となく義務のように書庫に通うことも久しぶりになると中々新鮮で心は少し高鳴った。 静か過ぎる廊下も、少し湿気の混じった書庫の匂いも久しぶりになるととても素敵なもののように思えて頬が思わず緩んだ。 「………?」 一時間が過ぎた頃か、何処からかわからないがかん、かんと音が響き、本から目線を外した。 師兄が云っていたようにこんなところ、だ。誰も来る筈もなく今まで通っていた間に此処を利用していた人は見たこともない。そんなところで音がするのは実に奇妙で音が一回する度に身体が一回同じように跳ねた。 「やあ、」 「…ひゃ…っ…」 誰かにぽすんと肩に手を置かれ高音が静かな書庫に響く。 行き成りのことに私は立ち上がり座っていた椅子が盛大な音と共に倒れた。脈の速くなった胸を押さえ上下で息を吸うと背後で笑う声が静かな書庫の中で反響する。それにむすりとして背後にいるであろう師兄に怒鳴り声をあげようと振り返った。 「し…け、っ…!」 「久しぶり、ちゃん」 「ふ…っ普賢さん!」 「さん、は要らないって云ったでしょ?」 師兄だと思っていたのは外れ、そこに立っていたのは先日川に一緒に行った普賢真人その人だった。普賢は後敬語もなしね、と云い倒れた椅子を元に戻し、に座るように進めたが師兄だと思っていたは驚きで脳の理解が追いつかないらしい。それを理解した普賢は突っ立っているを優しい物腰で座らすことに成功する。口が聞けるようになるまで座って数十秒時間を要し、開口一番に聞いた言葉は謝りの言葉で云い切る前に人差し指を彼女の唇につけて黙らせた。再度落ち着くまでまた数十秒、の顔は緊張気味になりながらも云う。 「ふ、普賢…はどうして此処、に?」 「ちょっと用があってね」 「そう…なんです、か」 「この間の質問の答えを教えに来たんだ」 「……え…?」 「今、望ちゃん居ないから」 と云う普賢の表情は至極愉しそうに、嬉しそうだ。はそんな普賢のする表情があの時から理解出来ずに、昨日師兄にもう一度聞いた。その時に返ってきた言葉は彼女の疑問を更に広げ、いつまでも渋る太公望に少しばかりの怒りを感じていたが太公望側から云わせてもらえばその怒りを買う以上の照れくささが彼を付きまとうためそのまま過ぎ去り今日に至る。実を云えば彼女はまだ太公望に対して怒っていた、その内容も怒るに足らない言葉な筈なのに、にも関わらず渋る太公望がわからない。は滞る思いをどうすればいいのか分からずそれを怒りに変えたのだ。 「ね、知りたいでしょ」 その言葉に異論はなく彼女は普賢に向かって頷いた。 普賢は微笑みを湛えたまま机を挟んだ向こう側でちょいちょいと手招きをする。それに素直に応じて身体を前方に寄せるとこの間は太公望によって止められた言葉が彼女の耳に吹き込まれる。 その言葉によっての頬は朱く染まり、逆に普賢はそれを満足そうに笑ったのだった。耳からその言葉が離れるまで頬の火照りも止まらなかった。 「いつもね、話してくれるんだよ。それはもう嬉しそうにが、がって」
嵐のような歓喜 (20090817)(← ↑ →) (そんな風に私の中に貴方を植えつけていくのね) |