「我輩の自室へは何人たりとも入室する事はならんと申し上げた筈だが」
略合っていた彼女の脳内スネイプ教授の声は現在進行形で現実のものとなり、スネイプのベッドの上で眼が覚めたは天井から仁王立ちしている男と視線を合わせた途端発せられた言葉にげんなりした。確かに勝手に入ったのは不躾な行為だとは思うが、まさか紐を引っ張ったら倒れてくるなんて誰も思いもしない。スネイプ自身も不可抗力だったらしく倒した理由を問いかけた時のの答えに頭を抱えた。引っ張ったのは彼には酷く似合わない媚茶色のリボンだった、それを云おうと本棚へ視線を向ければ、本棚はきちんと元の位置に戻っており到底それが倒れたなんて思えない程に元通りだった。幾ら魔法使いでも此処まで綺麗に出来るものなのだろうかと流石魔法薬教授ですね、といつ頃か思わなくなった男に対する無礼な言葉に一人彼女は青くなる。こういう言葉を思う前に云う言葉があるではないかと少女は男に顔を向けた。
「…すみません、」
「気絶だけで幸いだ、自室だけは死人を出したくないんでね」
スネイプの厭味さえ反応するのが億劫だと思う程に頭が痛んでいた。そう云えば前回も、気分が悪くなり倒れたのだっけと思い出したは溜息を落としたスネイプに対して青くなりっぱなしだ。何度スネイプに身体を持ち上げられているのだろうと関係無い処まで考えてしまいそうになる。
「本当にごめんなさ…」
謝罪を遮るかのようにスネイプの骨張った手が唇の前まで迫り微かにその指が唇に触れる、驚きで言葉が止まったを見下ろし口角をきゅ、と上げた。
「、暫くは横になっていろ」
スネイプは布団を身体に力の入らないの顔まで埋まってしまう程に引き上げた。苦しいと呻く少女に布団の向こう側で自業自得だと云うかのように鼻息を荒くした処で彼は怒り心頭しているのだと気が付く。(教授、あの…)とだいぶ厚みのある布団の中から発せられた言葉は上手く外には出て行かないのだが、スネイプはしかと目聡く、否耳聡く感知する。
「…何だ」
まるで地鳴りだと錯覚せずにはいられない声色に布団の中で身体を竦めさせたの行動を把握しているのかスネイプは返事も聞かずにドアノブを捻ってさっさと出て行ってしまった。一度跳ねた心臓は何度も跳ね、中々止まる事はない。消えた部屋主の事を思い、頭が痛くなるも布団に鼻を押し付けた事によって此処が未だに教授の部屋だと思い出せば、後はずるりと繋がりあっという間に青白い肌は朱みを含ませ熱気を帯びる。恥ずかしさで身体が一気に火照った少女を笑うようにスプリングが軋む。ベッドは紛れもなく彼のものなのだ、家を見ている限り婚約している様子も(そもそも婚約しているならば幾ら校長の命でも何とか断るだろう)していたという雰囲気も部屋でも薬学教授からでも発せられていない。(徹底的に陰湿なのだ)入室を拒んだ割には、してしまった後の対処がおかしいのではないだろうかとはどきどきする胸を押さえながら思う。
(何なの、本当に私、どうしちゃったんだろう)
自身に都合の善い考えばかりが浮かぶ度に只でさえぐらぐらしている脳に震動を与える事がどれ程気分を害するか分かっていなかったはかぶりを振ってから後悔した。もぐった布団の中は意識すればする分男が纏っている薬草の匂いと自身とは違う異質な匂いが交じり合って眩暈を引き起こす。横になっているというのに休まっている気分は一向に訪れず部屋から抜け出して自室に戻ろうかと考え出せばこんな機会はまたとないと勿体無い気がして抜け出せずに留まっている。
(沢山寝たから余計眠れない…)
痛い程、余計に心拍数を上げている心臓と、布団に染み付いた匂い、ソファーで思いきり寝た分とで安らぎは与えられない。体内時計で時間を測ってみようと試みるもそれも狂い出しているのか一分が何十分のように感じられるし、眠ろうと思えば思う程眠れない。常に嗅覚を刺激している薬草と異性(とは云ってもおじさんだ)の匂いに頭が爆発してしまいそうだとは思った。何故そうなるかは薄々感じていたが認めたくない思いと、陰険教師に対して抱くものかと思っていた自身がそんなものを、と云う気持ちが交差して自身に問いかけられそれを否定する。かぶらせられた布団を握り締めれば少しはましになるような気がした。