( 17:甘い味だけを知っている )

ダイアゴン横丁は人の多い処が平気であるを持ってしてでもうんざりする程だというのだから彼女の隣を意地している男は酷いものだろう。溢れ返っている人々は狭い通路で押し合いをしているにも関わらず男が通る先々は綺麗に一直線、人一人通らないというのが彼の機嫌を如実に表していた。はこんな事ならば一人で行っても善かったのにと思いながら人混みを殺す達人のような男について歩いた。ダイアゴン横丁に行きたい、と云い出したのは確実にからなのだが、男、スネイプに許しを請い一人で出掛けるつもりで問いかけた。スネイプは二つ返事で許可を与え、喜びに満ちた少女に自身も材料が切れたから共にと云う言葉を吐いた。

「、教授も一緒に行くんですか…?」
「ああ。何か都合でもあると云うのならば構わんが」
「い、いえ…!何もありません、っ」
「そうか」

スネイプは笑うでもなくいつも通りに返事をし、ソファーにかけたクロークを羽織った。此処と違いダイアゴン横丁は夏真っ盛りだと思うので暑いだろうという少女の心配を他所に行くぞと杖腕を出してそこに触れる事を促されたは素直に従う。そうすればいつ振りかの気持ちの悪い感覚が彼女の身に起こる事をダイアゴン横丁の見慣れた風景になる頃に気付いたスネイプははっと少女を見やるが既に遅くいつぞやの光景が映る。全く、云えばこうはならなかっただろうにとスネイプは思い留まり大丈夫かと声をかけた。気分の悪さはこの間よりもだいぶ緩和されたのか地面から身体が張り付いたままではなくなったのが幸いだった。

「何処に行きたいのか目的は決まっているのか」

気分の悪さから少し立ち直ったを横目で確認したスネイプは人混みの多さに辟易しているという表情を(いつものように眉間に皺を寄せた状態)しつつ言葉を投げ掛けた。その間にも人混みを作る人々達はスネイプの顔を一目見れば足を横にずらし男から遠ざかっていくのを本人は気分を害するでもなく逆に愉しそうに見えた。

「あ、はい。大体は」
面白いくらいに人混みが二つに分かれ教授と自身の歩道空間を確保していると思いながら、背の高い男へ視線を向けた。スネイプはその視線に気付いているのか否かは別としても機嫌の悪さは変わらず、ぼそりと声を放った。

「何処かね」
「きょ…教授の買い物は善いんですか?」

ダイアゴン横丁までは行動を共にし、それ以降は別行動だと思っていたは眼を丸くした。都合があるのかと聞いたのはこの為かと今更に気付き、スネイプは言葉の真意を今やっとの事気付いたかと云った顔で少女を見下ろした。勝手なことに顔、特に頬を中心として熱が集まっていくのが分かり顔を逸らせば再度尋ねてくる声に胸が跳ねた。我輩は後回しでも支障等ないと云う言葉に嬉しくなりながらそれを断る理由もなく、寧ろ歓迎だと云う処で首を横に振り頭を正常な考えに戻そうとすれば行き成りの奇妙な行動に訝しがったスネイプの視線が飛んできた。慌てて取り繕う前にスネイプは既に興味を無くしたようで行き先を提示するようにとに告げた。

「本等読むのか」

無関心さの中、微かに関心を得たのは少女が書店に行きたいと云った事だ。
まさか読むなんてと些かも信じられないと云った声色に無愛想に読みます、と答えればスネイプは決して云わないであろうと思っていた言葉を少女に云い、はそれこそ信じられない思いだった。確かにベスが恋人を作るまでは本には全く無関心であった。けれどもベスが彼とくっついている内、行き場が無くなってからは自然と足は図書館へ向き何気なく開いた本が今までの無関心さを悔やむ程に面白かったことから今では趣味だと答えられるくらいに本が好きになっていた。(確かに以前の私の素行だけを見ていたら信じられないのも無理はないと思うけれど)それでもそんな顔をしなくても、と今は書店の魔法薬学書物がある本棚へと向かう夏場には相応しくない黒いクロークを羽織った男の背中を見遣った。

自室に置いてあった大量の本以上にまだ読むのだろうかとスネイプの勤勉さに今まで魔法薬学教授はじめじめとして陰湿で厭みたらしで不機嫌をそのまま形取ったような男だと思っていた自分を恥じた。決して全て真実だと云う事には此処では触れないでおきたい。は物語、特に恋愛物を好んで読んでいるものだからスネイプが居る事も忘れて足は勝手にそれが置いてある棚へと向かう。天井ぎりぎりまで詰められた本の山から好みの本を探し出すのにはそう長くはかからず気に入った本を二、三冊腕に抱いていた。

「恋愛物好きなんだ、?」
知らなかったなあと突然背後で掛けられた言葉に驚き腕に抱いていた本を落としそうになった。厳密に云えばその声の主が本を空中で手に収めた事から地面に落ちる事がなかった。振り向くまでもなく声変わりをした声の主はの隣に立ち、地面との衝突を避けられた本を屈託のない笑顔で差し出してきた。誰ですか、と聞く前に笑顔を向けられた事によって思い出し、身体が強張った。忘れかけていた男は同じグリフィンドール生で大広間でに声をかけた男だった。身体が硬直している彼女に対し、世間一般で云うと恰好善いと云われる面構えで口元を緩めていた。

「こんな処で偶然逢えるなんて凄いね」
「わ、私…」
「待ってよ、この間はごめん。吃驚させたみたいで」

この間のようには上手くはいかず名も知らない上級生に腕を掴まれたまま成す術がないは腕の中に残された本を無意識の内に握り締めた。行き成り謝られたはどう返答すればいいのか分からず、今は兎に角腕を離して欲しかった。

「…っいえ、気にしてません。あのっ…私もう行かないと…」

自身の方へ腕を引き返そうと力を入れるが細いがしかとしている指が皮膚に食い込んで離れない、グリフィンドール生はお茶でも行かないと半ば強制的に誘い文句を紡いでいる。教授が居ればとこんな時に思ってしまってはいけないのだろうけれども思わずには居られなかった。同じものを探しているのか背後で迷惑そうに喉を鳴らした魔法使いに慌てて退くとそのまま青年の腕の中に収まってしまい、飛び退こうとしてもいつの間にか背に回された腕によって出来ない。

恋愛小説が腕の中に、その一回りを行くのは知らないグリフィンドール生の腕。書店内だと云うのに彼は気にも留めず抱き寄せたまま離さない。先程喉を鳴らした魔女は場を弁えないのかと云った声(まあ、!)を上げた。どうしようと頭がぐるりぐるりと廻り、迷惑だと云う感情とは裏腹に顔が朱く染まるのを見た彼の表情は相も変わらず笑顔、否それ以上を行くものだった。勘違いをしているのだと珍しく察したは腕の中でもがくが両腕が自身から離れていく事はなかった。