( 02:桜桃のない庭だけど )

ホグワーツに入学してから六年が経った、日本で云う桜が舞う季節、そう春がやってくるよと予感させる少し肌寒いそんな日。日本人であるが日本に帰るのは年に一度、そう学級が一つ上に上がる時、その時にはもう日本で云えば夏なのだから桜なんていうものは既に散ってしまっていて葉っぱさえ何処か元気がない、暑さの元帰る。だから桜と云う花を肉眼で見る事が出来たのなんて遠い昔の話だった。マフラーを首に必要以上に巻き風が来ても落ちないようにとすれば隣に居る友人が呆れてそれじゃあ、変な怪物みたいよと突っ込まれる。いいの、暖かいのだからと友人の忠告を無視してそのままに外を出れば春が来る季節だというのに雪がしんしんと降っていて驚くとは裏腹に友人は寒いわけだと納得した。

腕の中には教科書が握り締められていたが少し油断をすれば地面に落としてしまいそうな寒さだった。眉を顰めながら寒さと葛藤しているに友人は呆れ顔で先をどんどん進みそれを追いかける。その姿はまるで親についていく子供のようだと思った。こじんまりとした建物の中には沢山の薬草が生っている。あまり薬草の匂いが好きじゃないと顔を顰めればそれを見ていたスプラウト先生の険しい表情が飛んでくるものだから何とか絶える。マンドレイクが耳当ての向こうで叫ぶ中、マフラーでぐるぐる巻きになって見えなくなった唇で同じように叫びたくなって集中的に監視されているのか此方を見ているスプラウト先生と眼が合いやめた。

「土の匂いって嫌い」
「仕方ないわよ、授業だもの」

自分より遙かに大人びた事を云う友人を少し羨ましく思いながら、何で自分はこんなにも子供っぽい事しか云えないのだろうと考えてみても子供の脳では大人の意見が云える友人の考えはさっぱり分からない。溜息を吐きながら土の匂いがこびり付いて仕方が無い手を石鹸で必死に落とそうとするけれど中々落ちずに苛々しながら手を擦り合わせていると次の授業を知らせる腕時計が鳴る。そう云えば次は校内一陰険で蝙蝠のようでありながら口元は何かを嘲笑するかのように痙攣させている彼女の苦手な先生ではなかったか。否、校内でその男を敬う生徒など片手で数えて果たしているのかどうか怪しいものだ。は慌てて石鹸を洗い流し教科書を引っつかんで走り出す。友人はこういう時には酷いものでだいぶ前にさっさと一人で行ってしまっていた。

首に纏わりつくマフラーを思い切り引き剥がし足を一生懸命に動かすけれども時計の針は刻々と進んでいく。廊下の床を蹴り飛ばしてもその魔法薬学を行っている教室まではだいぶ距離があった。地下室の階段を思い切り駆け下りて扉を開くと瞬時に鋭い視線が一番に飛んできてその後からグリフィンドール生と合同のレイブンクローの生の視線が注がれた。

「遅れてすみません…」
「これで何度目かね?Ms.

鋭い視線は隠そうにもこの暗いじめりとした教室の中で一番そこに溶け込めている男、魔法薬学の教師セブルススネイプだった。は鋭い視線を真っ向から浴びつつ背中に冷や汗をかくのを忘れずにいながらもまだ微かに残る土の匂いに顔を顰めそうになったがそれよりもこっちの方が重大だと頬が変に引き攣りそうになりそれを見た教師は苛めるのがさぞ生き甲斐だと云うかのように唇の端を引き上げ笑顔を作る。が、それは普通の笑顔と分類されるものではなく、相手を嘲笑うかのような笑い方なので陰険教師以外教室に居る誰もつられて笑う事などない。は一年からの遅刻の数を必死に思い出そうとしてみたが沢山ありすぎて思い出せず、罰則の数も律儀に考えてみるも分かる訳がなかった。

「ええと…すみません、覚えていません」

そう云えば目の前まで来たねっとりとした笑い方の教師は更に愉しそうに頬を痙攣させるものだからついには元々低い部屋の温度は数度下がった。所持している杖が風の抵抗でひゅんと鳴る。

「二十二回目だ、今日を入れるならば二十三回。覚えておけ」

頬の震えは最高潮になり杖が風に何度も抵抗を見せる音を鳴らして教卓を叩き壊さんばかり。震え上がる身体を叱咤しながら席に向かうとそこには自分をさっさと置いていってしまった友人が口だけを動かして莫迦、と云った。それに反論しようと思わず声を出してしまい只でさえ機嫌が悪い教師は眉間に皺を数本足し、ぎろりとした眼をに向けた。慌てて椅子に腰掛け教科書を捲ればその視線は直ぐに他へ向き低い声が教室一帯を包み込んだ。

「余程罰則を受けたいとお見受けする。早速だがこの授業後残ってもらおう」