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( 21:はじめから嘘を付く )

夏休みはあっという間に終わってしまった。実際に最終日になると●は淋しい気持ちで一杯になっていたそれでもスネイプに何か云う訳ではなく、いつも通り朝から夜までを過ごした。それはスネイプにも云える事で何か特別云うでもなく普段通りだった。朝は慌しく用意する●に対し荷物の多くないのかスネイプは平然と紅茶を啜って身支度が終わるのを待っていたが最終的にはスネイプがカップをお皿に戻すまでは終わらず、杖一振りで全てを終わらせてもらう結果となり、●はスネイプに暫くは頭が上がらないだろうと思った。 行きとは違い、ホグワーツへ戻る場合に二人で姿現しで行くのは不審がられると云うスネイプの言葉を受け取り●は魔法で軽くしてもらった荷物をロンドン駅の慣れ親しんだ壁へ誰にも気付かれないよう細心の注意を払いながら吸い込まれていった。駅前まで引率してくれたがそれからは生徒に見られると云う危険を冒すつもりはないと云い残し姿現しで消えた今日から教師に戻る男を見送った。カートを置き場に戻しトランクを運びながら友人の姿を探すが、時計の時刻を見てもまだ十五分以上の余裕がある。まだ来ないだろうと先にコンパートメントに入った。早いだけあって席は何処もがらりとしていて選び放題だ。毎年●はぎりぎりに列車に乗るものだからこの光景は珍しい、に尽きる。今年、最終学年にして見れる事が出来たのはスネイプのお陰と云えよう。

「今までで一番早いんじゃあない?」

やっと友人であるベスの声が二ヶ月ぶりに聞けたのはそれから出発ぎりぎりになってからだった。ベスは相変わらず綺麗な髪の毛を波立たせ、コンパートメントの扉を華奢な腕で押さえていた。この間買った本を閉じ(結局代金を渡そうにも取り合ってくれなかった)現れた友人に対して久しぶり、と云おうにも開口一番にそう云われてはその受け答えは可笑しくなってしまうと喉が一瞬詰まった。ベスは返事を期待していなかったのか扉から腕を離し中へ、そのまますとんといつものように目の前の座席に腰掛ける。●は驚きの表情を浮かべ彼女を見るのだが、彼女はその意図を直ぐに察し嗚呼と声を洩らした。

「別れちゃったの。何だか分からないけれど、しっくりこなかったというのかしら」

ベスは陰険教師が好きではなかったと告白した時と同じような表情で、窓の外を見た。汽笛が鳴る音が外で聞え、やっとの事出発し出した汽車と同じくベスもまた気持ちを切り替えてか明るい声で夏休みの出来事を口にし出した。長い演説の後●はどうだった、と聞かれまさか毛嫌いしていた教師の元でお世話になっていた等と、(何も無かったとは云え、教師と生徒と云う世間の眼がある)口が裂けても云えないと曖昧な笑いを描きながら日本に帰っていたと嘘をついた。続きを聞かれやしないかと冷や冷やしながらベスの返答を待っていれば案外あっさりと離してくれ、また自身の夏休み中の素晴らしい出来事を話し始めてくれたお陰でぼろが出る事はなかった。

「今年も素晴らしい一年になるよう…」

ダンブルドア校長の短い演説が終り、皆食事を取り始めるのだが、●だけが職員テーブルへと視線を向け中々目の前のお皿が何か乗る事はない。誰kが好き好んで陰湿な男へと視線を寄せるものがいるだろうか、夏休み前と何ら変わりのない男がダンブルドアの隣で平然と目の前に出された食事を口にしていた。夏休みが終わって悲しくなっているのは自分だけだと事実を突きつけられた少女は食事を取る気もせず、友人に先に戻ると云い一人大広間を出た。訝しがる友人にコンパートメントでお菓子を沢山食べてしまったからと付け加えればその視線は緩み、呆れたものになるのを●は知っていた。

「厭になる」

本当に厭になる。ベッドに飛び込めば枕が邪魔して彼女の顔を痛めさせた。初日からこの様子では先が思い遣られる、先よりも今が大事だと思っている彼女にとっては今この瞬間がどれ程大切であり、この先待っているものなどに眼もくれない事が後悔に繋がる等とは思ってもみない。トランクは早々にしもべ妖精達によって届けられ下ろしている足元に何度も当たり苛立ち蹴っ飛ばせば、小さな身体が起こす蹴りの威力など高が知れているとトランクに笑われるかのように鍵が開き、一瞬の間に中に詰め込んだ荷物が一気に舞った。爪先は勿論痛みで熱を持っている。

「本当厭になる!」

トランク関連したものは自身が悪いと云うのに略外に出てしまった荷物に悪態を付くと杖を一振りしてまた元に戻した。(呪術が得意で善かったと此処で少し怒りが収まった)またベッドへと繰り出すと感情の治まりと共に何も入れていない胃が物を欲する音を鳴らす。嗚呼、お腹空いた呟いても家ではない此処では決まった時間に大広間へ行き食事を取らなくてはならない、それを先程自分から止めたとあってはまた戻るのも癪だと変な意地を見せ毛布にしがみ付いた。

ちらりちらりと脳裏に掠めるスネイプの姿にまた苛立ちを隠せなくなり、枕を投げるという暴挙に出てみてもその怒りは収まらない。そもそも何故スネイプに怒りを向けているのかさえ最終的には解らなくなり●は目尻に涙を浮かべた。最近悲しくなってばかりだ、と直接関係していないスネイプを恨んだ。