( 25:こころが巣食われそう )

は多いに厭がったが最終学年ともなると授業一つ放棄するのも躊躇われる。それを幾ら友人達が説いた処で彼女が一度胸に決めた思いは中々変えられる事が出来なかった。医務室で一日を過ごしたに対し何度か顔を見に行ったのだがベスもアマンダも扉を開く事なくマダムポンフリーによって門前払いを食らっていた。仕方なしに翌日まで待ってみたが彼女達が医務室に出向くまでもなくの方から寮へと戻ってきた、処までは善かったのだが友人達は彼女の顔を見た途端悲鳴を上げかけた。まるで暴れ柳に強烈な一発をその眼球に食らったかのように眼が腫れ上がっていたからだ、一目見ただけで分かる一日泣き腫らしたとされる双眸に眉を顰め口を開きかけるベスをアマンダは止める。何故と云うベスの視線にアマンダは臆する事なくの肩をそっと抱いた。

この行動はもベスも予想外だったのかその表情は驚きに満ちている。何か発しようとするのを止めるかのようにアマンダは言葉を紡いだ。

「お腹空かない?最近食欲無いみたいだけれど、昨日は食べてないのだから沢山食べられるわ!」
「…うん」
「じゃあ決まりっ!ほらベスも行きましょう」

やや納得のいっていないベスを気に留めるでもなくアマンダは寮に戻ってばかりのをまた穴の外へ出した。このまま寮へ戻しておけばどうにかなってしまいそうだと思っているかのような行動だった。廊下へ出せれば厭でも人の眼に付くのだが生憎そこまで配慮に欠けている彼女ではなく即座に腫れを取る呪文をへかけた処にベスも穴から這い出てきた。腫れ引きの呪文は善く効いており再度彼女を見たベスは先程と打って変わって元の通りになった顔に眼を瞬かせ、珍しくアマンダの意図を汲み取ったベスはやっとそこで彼女の調子に合わせる気になる。

普段通りグリフィンドール席に座り朝食を取る三人の内、はテーブルの一点を(まるで見えない誰かがそこにいるみたいに)見たまま固まっていた。まだ調子が戻っていないのだと感じたベスは変わりに料理をお皿に取ってやり彼女の前へと置いたりし、遅れてそれに気付いたはぎこちなく口元を緩めようと勤めながらお礼を述べたが隣から聞えてくるのは食器にそれを落とす音だった、向かいに腰掛けたアマンダは先程から何か思案するかのようにフォークを唇につけたままと同じように硬直状態に陥っていた。一人だけ身体が自由であるベスは友人二人の行動に不可解さを脳に植え付けただけでそれ以外の感想は何一つ持てず、料理を口にする事にし考えるのはそれからでも構わないだろうと云う結論に達した。 しばしそれで保たれていた雰囲気の隅に見え隠れし出した黒衣に何を思ったのか、ベスはフォークから唇を離し声高らかに言葉を発した。

「あ、
「…うん、?」

そのトーンの高さにつられて顔を些か上げたにベスは一層眼を輝かせる。まさかその名前が彼女の口から零れ落ちるとは露にも思っていなかったは息が詰まった。

「スネイプ先生よ!」
「——っ!」
「貴女、最近先生の事気にしている様子だったから。元気出るんじゃあない?」

その言葉一つでこうも人間は顔色を変えることが出来るのだろうかと云う程に白めの肌をさあと青ざめさせたはベスの云った通り黒いものが視界の端に映るのを何処か遠くで感じていた。彼女の様子を真向かいで見る事が出来たアマンダはその態度が不調の原因を物語っておりベスが失言した事にも気が付き、と同じように顔を青くさせたがそれは直ぐに怒りへと変わった。相も変わらず顔をあげようとしないの髪の毛がゆるりと揺れる。見たくない筈の男が遠いようで近くに居るという事が彼女にとってどれ程のものか、アマンダには計り知る事が出来ずにいるがそれでもただ一つ云える事がある。この少女は魔法薬学教師に恋心を抱いていると。アマンダ自身それは認めなくていいものならば一生認めはしないだろうし、自身少し前までは彼女と同じ意見で陰険教師を見ていたのだ。にも関わらず彼女は知らぬ間におかしな方向へと向かっていっている、状況の読めないベスを差し置いてアマンダは嘆いた。

元気が出るだろうと思った行動が裏目に出てしまったことにまだ気が付かないベスはどうかしたの、と言葉をかけようとしたが視線で彼女を射た。アマンダはこれ以上ここに居ても状況は悪くなるばかりだと席を立ちは依然顔を俯かせたまま、教師席へと顔を向ける事も二人の友人達に顔を見せる事すらしないままだ。そんな彼女の腕を引っ張り上げ、ずんずんと出入り口へと向かうアマンダにベスは呆気に取られる時間分の損失を補う為小走りで彼女達を追いかけていった。